転生武田義信

克全

第25話善信軍団創設

躑躅ヶ崎館善信郭の大広間:善信視点

俺は信玄や譜代重臣たちから、新たな近習衆として、彼らの思惑一杯の子供たちを、無理やり押し付けられた。

受け入れる事にしたいじょう、できる限り教育しなければならない。

主だった者は、小山田信成8歳、こいつ裏切り者で大嫌いだったけど次男だったんだな。穴山信嘉、裏切り者梅雪の弟か、しかし4歳は早すぎるだろ、ここは保育園じゃないんだよ。

今現在俺の文武塾に所属しているのは、曽根虎盛、長坂昌国、松尾信是、下条信俊、信盛、信康、友光、家長、信秀、跡部昌忠、長坂勝繁、鮎川勝繁、漆戸虎光、市川昌房、跡部昌秀、楠浦虎常、跡部昌長・加津野昌世、於曾信安、甘利昌忠、甘利信康、米倉重継、駒井昌直、市川、楠浦などだ。

もともとの近習衆・元服した即戦力・人質同然の保育園児。だぁ~、勘弁してくれ。俺にはやりたいことが山ほどあるんだよ!

だが一門重臣の子弟を邪険にすると、思わぬところで足元を掬(すく)われるかもしれない。仕方ないので、俺のやり方を知っている古株近習を教育係として、新人近習を俺流に教育する。特に小山田と穴山は徹底的に洗脳だ!

だがな~、これも信玄の親心と言うか苦肉の策なのかもしれない。最初は俺も、譜代衆の不満解消と忠誠心育成だけかと思っていた。でも保育園児の人選見ると、信玄の苦悩苦心苦労が分かるわ!

信虎時代からの打ち続く合戦で、当主が討ち死にしていたり不具廃疾(ふぐはいしつ)になっている家臣の子供が多いんだよね。微禄家臣で当主が戦えないわ、農耕できないわじゃ、召し放ちか極貧暮らしだよな。

そんな事になったら、甲斐なら奴隷落ちもあり得るからな。武田家のために戦って傷ついた者の家族を、奴隷になんか絶対できないよな。

わかったよ父ちゃん、セーフティーネットは俺に任せろ!





躑躅ヶ崎館:善信郭の小軍議室

「黒影、説明せよ」

今日の議長は、甘利信忠が務める事になっている。元服済みの近習は、全員を輪番制で議長をさせる事にした。そうすれば、考える力も調整能力も鍛錬されるかもしれない。元の身分に関係なく、能力での優劣に気づいてくれたらいいけど、これは無理だな。

他にも重大な所では、諜報部隊も大幅に改変した。対忍者の護衛役は武芸優先部隊とし、家臣の動向を探る内諜部隊も編成した。諸国の動向を探る外諜部隊も増強し、軍資金を稼いでくれる荷役などの商いの商諜部隊は大増員した。

だが部門別に分けた事によって横の連絡がなくなる事は怖いので、横の繋がりも重視して縦割り弊害はなくしている。

だが飛影の存在は秘中の秘だから、近習たちの前で情報を説明する役の影(忍者)を、別に任命した。影衆の人数・性別・年齢は近習衆にも秘密です。

「は、上野新田に逼塞(ひっそく)していた太田資正が、北条のすきを突いて松山城を急襲して、奪回いたしました」

「関東はまだまだ戦いが続くな」

「は」

「皆は、どう思う」

「御屋形様のお考え次第でございますが、信濃の国衆を支援している、関東管領の上杉憲政を牽制する意味でも、北条との誼(よしみ)は継続するべきかと考えます」

楠浦虎常が答えたか、父親が信虎爺ちゃんの側近だったから没落したんだよな?

それとも、能力や政策方針の相違か?

だが、この意見なら真っ当な戦略眼だよな。

「反対意見はあるか? ないなら次だ」

「三河は相変わらず、今川と織田が争っております」

「事の起こりはなんですか?」

鮎川勝繁か、最初の起こりから探るか、見所はあるが大局的な判断力はあるのかな?

「小豆坂の合戦の後、織田信秀の尾張と三河国境地帯に対する影響力が強くなりました。三河国碧海郡の刈谷城を中心に、国境地帯に勢力を持つ国衆の水野信元が、岡崎城主・松平広忠に妹の於大を嫁がしていましたが、絶縁して今川家から離反して織田家に従いました」

「その後ずっと合戦をしているのですか?」

鮎川勝繁はよく話を聞くことができるのかな?

「いえ、いったん収まったのですが、松平広忠が織田家に対抗するため、今川義元殿に変わらぬ臣従の証として、嫡男竹千代(6)を人質として駿府の義元殿へ送ろうとした。しかしながら、駿府への護送の途中に立ち寄った田原城で、義母の父・戸田康光に裏切られて、織田家へ1000貫文で売られてしまったのです」

「「「「「ひでぇ~」」」」」

皆一斉に声が出てしまった。

「なぜ戸田は裏切ったのです? 義母の父と言う事は、水野の妹が離縁されてから輿入れしたのですよね? それとも離縁後も残っていたかですか? それ相応の覚悟で松平と縁を結び続けたはずですが?」

ほう、やるね鮎川!

君は軍師候補!

「それは昨年に、今川義元殿が戸田氏の一族である戸田宣成、戸田吉光の一族を滅ぼしたためでしょう。いずれは自分たちも誅殺(ちゅうさつ)されると考え、織田家に寝返ったものと思われます」

「それで、戸田一族はどうなりました?」

鮎川君冷静!

「田原城の戸田康光は、義元殿の派遣した2万の大軍に攻められ、現在も籠城中であります」

「松平竹千代はどうしているのです?」

「織田家で人質として暮らしているようです」

「松平広忠は嫡男を織田に奪われても、今川家に忠誠を尽くす心算なのですね?」

「織田信秀は人質の竹千代を利用して、松平広忠に今川家を離反して、織田の傘下に入るよう説得したようです。ですが大叔父の松平信定が反乱した時に、苦境を助けてくれた今川家に忠誠を尽くし、織田家に徹底抗戦する心算の様です」

「武士として立派な心構えと言えますが、勝敗の行方はどちらが有利かを考慮した上の判断でしょうか?」

ほう、松平広忠の武将としての力量判断力を推し量るか、武田に取り込むべき人材かを選別しているのなら、大したものだ。

「申し訳ありません、その判断はつきかねます」

「それでいいのだ! 諜報担当が自己の推測を加えて情報収集しては、客観的な情報ではなくなる。今まで通り事実だけを収集してくれ。土地の噂や民衆の推測は、噂(うわさ)や推測として情報を上げてくれ。よくやってくれた」

俺は黒影を褒めた上で、皆に情報の客観性の大切さを説く。

「では皆の者、我が武田の取るべき策を述べよ!」

甘利信忠の発言の後、喧々諤々の論戦になったが、新規近習で禄も低い鮎川は、発言の時期を計っているようだ。いいね~!

「鮎川、お前はどう思う」

俺は発言を促して、さらに鮎川の判断力を試してみる。

「あくまでも御屋形様のお考え次第ではありますが、武田家は信濃攻略を最優先としております。三河を巡る争いには、国境線を堅守するが一番と考えます。ですが万が一織田家が遠江まで攻め取るようなら、信虎様や定恵院様・今川氏真様とのつながりもありますから、三河に攻め入り切り取れるように、準備しておくのがよろしいのではありませんか?」

凄いね、信玄への配慮を最初にしておき、情勢判断を的確に説明した上で、現実路線と将来の可能性を考慮した最善策を提示する。軍師決定!

でもまあもう1つ、試験問題として具体策も出さすか。

「具体策は?」

「はい、天竜川を下って三河に攻め込むと、今川殿の遠江の城を犯してしまうかもしれません。それでは今川家との友誼(ゆうぎ)が失われてしまいますので、別所街道を下り設楽城と別所城を攻略し長篠城に至るか、設楽城から田峯城に向う策が1つ。2つ目は根羽砦を拠点に飯田街道を下り、武節城を落とし美濃を窺う策。3つめは木曽に出て落合川を下り、美濃に出る策です」

そうか!

俺は地理に疎(うと)いけど、木曽を攻略すれば美濃を狙えるのか。いや、飛騨を攻略すれば、飛騨川や長良川を下って郡上郡の八幡城や木越城・犬地城まで攻略できるかもしれない。

「鮎川、木曽を落とせと言いたいのだな?」

「はい、後背の安全を確保しなければ、好機を逃してしまいます」

「御屋形様に伺いを立てねばならん、共に参って説明いたせ!」

「はい、承りました、お任せください」

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