転生武田義信

克全

第17話銭の効果

10月:躑躅ヶ崎館の信玄私室

「銭の効果が出ているようだな」

今日も俺の料理を貪りながら信玄が鉄砲鍛冶の事を言う。

ちなみに今日の料理は

1:新巻鮭(あらまきじゃけ)の塩焼き
:鮭(さけ)・塩
2:猪(いのしし)の生姜焼き
:猪・葱(ねぎ)・生姜(しょうが)・たまり醤油(しょうゆ)
3:白和(しらあ)え
:青菜(あおな)・豆腐(とうふ)・煎銀杏(いりぎんなん)・塩抜筍(しおぬきたけのこ)・茹大豆
4:玄米飯
:玄米
5:味噌汁
:麦味噌(むぎみそ)・干椎茸(ほししいたけ)・泥鰌(どじょう)・牛蒡(ごぼう)
6:梅干
:梅干・梅紫蘇(うめしそ)
7:葡萄白玉(ぶどうしらたま)
:甲州葡萄を煮詰めたものに白玉を入れたもの

木気:梅干
火気:筍(たけのこ)・銀杏(ぎんなん)・牛蒡(ごぼう)
土気:大豆・玄米
金気:生姜・葱
水気:塩・たまり醤油

「はい、将軍家は2人の鉄砲鍛冶をよこしてくれました」

足利義晴将軍は、気前よく2人も鉄砲鍛冶を送ってくれた。まあ、まだこの時期は、火縄銃は珍奇(ちんき)な道具と言う程度の認識なのかもしれない。

「出費は予定通りの500貫文で済んだ、三条卿への500貫文も効果が出ている」

「どのような形に収まりそうですか?」

「二郎と三郎を養子にするのは納得されたようだ。ただ実子が産まれた場合は、その子を優先するとのことだ」

まあそうだろうな、俺も別に精力剤を送っておいたからな。

「京都の屋敷をこちらが使う件は、どうなっております?」

「嫌も応もない、お前の荷役が堺商人を呼び寄せて商いをしているのであろう? 屋敷は賑やかになるわ、商人たちからチヤホヤされて献上品はもらえるわ、ご機嫌で自由に使って構わんと手紙が来たわ」

「河原者(かわらもの)の子供や老人を、屋敷内に立ち入らせている件は?」

「屋敷の修築や掃除に必要と、虎繁(とらしげ)が三条卿に申しているのだろ? 虎繁からの説明と、実際の働きを見て喜んでおられるようだ。何百人もの下人に傅(かしず)かれて、ご満悦なのだろうさ」

まあそうだろうな、極貧の生活が長かったんで、家人や下人などほとんどいなかっただろう。数百人に傅(かしず)かれての生活など、今の公家には1人もいないだろうし、人生で1番の幸福期かもしれないな。京都に責任者として送り込んだ秋山虎繁も、想定以上に上手くやってるようだ。

「しかし、虎繁は女癖が悪いぞ? 公家の娘に手を付けたら問題が起こるぞ」

へ?

女癖が悪いの?

駄目じゃんそれ!

「代わりの者を送ります!」

「冗談じゃ、ただし手紙で釘を刺しておけ。朝廷や幕府への工作の加減がある、こちらが指示した女以外は、身分の高い娘に手を出すなとな」

「承りました」

「ところで善信、唐揚げはないのか?」

まだ喰うのかよ?

喰うんだろうな、何か揚げて美味いものあったか?

「料理長、山鳥が吊(つ)るしてあったな?」

「はい、ございます」

黙って廊下に控えていた、料理長の相賀光重が即座に答えた。

「丁寧に筋切りしてから、唐揚げにしてお持ちしろ」

「承りました」

「精をつけんとな、今宵は三条の所に渡る」

これこれ、息子の前でそんな話をするんじゃない。まあ、俺も元服を済ませているし、遠慮する必要もないのか?

「仲がよろしい事は何よりです」

「三条には、もう幾人か男子を産んで欲しい。二郎を養子にやるなら、なおさら男子が必要だ。そのためには、食養と漢方薬のどちらがいい?」

「母上には密かに食養を行っております。二郎と三郎の健康にも、細心の注意を図っております」

「善信! お前が極力毎日の食事を差配しているのはそのためか?」

「はい、我が父母兄弟を病から守るのも、善信の務めと考えております」

「先々の事もあるから、相賀を始めとする料理人を鍛えて、できるだけ早くお前の手が離れる様にしろ!」

「承りました、我が小人衆も鍛えております。信繁叔父上をはじめとする一門衆にも、食養のために料理人を派遣したいのですが」

「一人前に料理が作れるのなら皆喜ぶであろう、次の機会に話しておこう」

「お願い申し上げます」

よし、これで一門衆の家人に素破を潜り込ませられる。何よりも、元難民の小人たちの中には荷役や素破に向かないものもいる。これで料理に適性がある者にも、いい仕官先ができたな。





躑躅ヶ崎館の善信私室

「若殿、麦から酒を造る職人が見つかりました」

「でかした、どこにいたのだ?」

「壱岐の国でございます」

また九州かよ、随分遠くまで探しに行ってくれているのだな。

「遠方までご苦労であるな、それで、甲斐に迎えられそうか?」

「知行50石を保証し、武士待遇で迎えることで納得したそうです。何よりも足利将軍家、細川管領家、三条家のご教書が効いたようでございます。ただ上手くいきすぎて、杜氏(とうじ)が6人も来たいと申しておるようですが?」

「6人全員に来てもらってくれ、多ければ多いほど酒に使う米を減らせる」

「承りました、直(す)ぐに使者を送ります」

「京都の三条屋敷はどんな状態だ?」

「西国や九州に向かう荷役のよい拠点に成っております。堺商人も、商いのために入れ代わり立ち代わり、三条屋敷に日参しております」

「都は惨(むご)い状態と聞いているが、焼け出された子供は多いのか?」

「はい、河原者に加わって命永らえられればよい方です。大抵は奴隷として売られております」

「三条屋敷に収容するのも限界があろう、甲斐まで連れてこられるか?」

「京で荷をさばいた者に、子供たちを甲斐に連れてくるよう指示しております」

「うむ、よく手配してくれた、そのままできる限り助け出してやってくれ。だがそのために必要な食料は、確保できているか?」

「作柄は平年並みでございます。一方狩猟や漁猟は、小人が増えた分大猟でございます。何より鹿の捕獲と養殖が順調で、春には大量の鹿茸が手に入ると思われます」

「それはよかった、開墾した田畑は甲斐の水田が8000反、畑が3000反、伊那郡の水田が4000反、畑が8000反だったな?」

「はい、恐らく年間で玄米が1万2000石、雑穀が2万3000石収穫できます」

遣り繰りすれば、2万人くらいの難民を喰わせていけるか?

「葡萄の苗などの果樹は、上手く育っておるか?」

「順調でございます。植樹の終わった山々は、10年後には豊穣(ほうじょう)の山となりましょう」

「養蜂はどうだ?」

「若殿の申されるように、城壁に囲まれた場所のせいか、植樹ほど順調ではございません。しかしながら、秘法を他国の忍から守るためには、致(いた)し方ございません。それでも確実に、巣箱に蜂が集まりだしております」

「今年は蜂蜜を集めず、成虫を確実に冬越えさせてくれ」

「承りました」

「養蚕の方は順調と聞いているが?」

「はい、白絹のできは素晴らしい物があります」

「餌にする桑の植樹は順調か?」

「河原など荒地を中心に植えておりますが、果樹と共に山々にも植えております」

「牛馬の数は増えているか?」

「ご指示通り、購入価格を3貫文に増やしたところ、順調に購入できました。数は牝馬が522頭、牝牛が219頭でございます。それと春に産まれた子馬が209頭、子牛が118頭でございます」

「農耕用に、領民に公平に貸し与えてくれ。それと雄の仔馬は、そろそろ軍馬への調教を始めてくれ」

「承りました」

「職人を始めとする難民は幾人になった?」

「以前からの職人も含めて、鉄砲鍛冶が2人、刀鍛冶が18人、弓師が19人、甲冑師が18人、皮革職人が42人、竹細工職人が41人、木地師(きじし)が95人、大工が15人、塗師が13人でございます。難民は甲斐の開拓地に5223人、福与城内に1000兵、荒神山城に2203人、竜ケ崎城に2322人、高遠城に2392人でございます。あと正確な人数は把握しておりませんが、上之平城、大出城、箕輪城、松島城、北の城、下の城、大草城、的場城、春日城、殿島城などには、それぞれ400人規模の難民を住まわせております」

「1万7000人前後と言うことか?」

「左様でございます。1万7000人の領民が、狩猟採集に励んでおります」

「まだ助けられそうか?」

「修築した城は、2000人収容できるように、拡張増築を指示しております」

「軍資金は6万貫文からどれくらい増えた?」

「牛馬の購入費、御屋形様への献上銭が1万貫文、荷役への歩合銭、領民の労務へ賃金、武具甲冑などの購入費、全て支払ったうえで、10万2131貫文残っております。もちろん荷役が持ち出している商品分は、利益として計算しておりません」

「堺商人へ大量販売した事が、予想以上の利を産んだのか?」

「左様でございます。それと、京の三条屋敷を拠点とした西国への販売が、想像以上に効果的でした」

「さて、一番聞きたいことがある。難民たちの忠誠心はどうだ? 彼らは我に落胆失望していないか?」

「他国の忍びが紛れ込んでいないとも限りませんし、全ての民が真っ当な心根の者とは申せません。しかしながら、城内に住居を拝領し、新たな難民住居のための築城すら行っておられます! 何があっても護ってもらえると、目に見えて実感できたのです。ほとんどの者は、心から感謝しております!」

「そうか、それを聞いて安心した」

「転生武田義信」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「歴史」の人気作品

コメント

コメントを書く