転生武田義信
第11話硝石
山犬や狼を、隣国に追いやるための山狩りが始まった。まあ、猪・鹿・熊・狸などの食料確保の片手間仕事ではある。普通なら獣を狩りやすいところに勢子が追い込むのだが、今回は国境に向けて進みながらの狩りに成る。当然効率は極端に悪いが、一番の目的が人を襲う山犬と狼を敵国の里に追いやることだから、これは仕方がない。
「若様、大丈夫ですか、つらくはないですか?」
「昌世こそつらいだろう、儂は近習に背負ってもらうから、もう降ろしてくれてよいぞ」
「なぁに、全然平気です!」
子供の俺に山狩りは厳しい。飯富虎昌が居れば奴が背負うのだろうが、今回は曽根昌世が背負ってくれた。甘利信忠と、どちらが背負うか争いがあったようだが、俺は関知(かんち)していない。
「若様は近習に、飯富虎昌の猶子をお加えになられたとか?」
「それがどうかしたか?」
「虎昌の猶子を近習に加えたのなら、我が息子も加えて頂いて当然ではないでしょうか」
「だが昌世の息子は、儂と同じ6歳ではなかったか? あまりに早いであろう?」
「されど若様は、もう一人前のお働きでございます」
「そう焦るでない、だがどうしてもと申すのなら、勉学だけは共にいたしてもよいぞ」
「真でございますか、有難き幸せでございます!」
「ただし! 我が教えている小人の子供たちと同席じゃ!」
河原者や山窩が多い難民は、そのままの身分で俺の側にいるのは争いの元と考え、全員武家奉公人としての地位を与え、側近くの雑用係と体裁を整えた。
「結構でございます、真にありがとうございます」
「そろそろ交代いたせ、いざという時のために余力は残しておくものだぞ」
「承りました」
俺は32騎に増えた近習衆に、交代で背負われることになった。
高遠城:大広間
「若殿、新たな縄張りですが、理由をお聞かせいただけますか?」
飯富虎昌は高遠城の城代に成っている。今まで虎昌が城代を務めていた福与城は、虎昌が選んだ者に任せた。水腫病保菌者の恐れがある1000兵は、可哀想だが隔離しなければならない。基礎的な訓練は虎昌がしてくれたので、後は虎昌の家人に任せればいい。その上で、高遠・竜ケ崎・荒神山の3城を拡張増築した。
「牛馬の乳の量が、儂の考えていたよりはるかに少なかったのだ。河原者に任せれば増えるかと思ったのだが、残念ながら駄目であった。それで別の手を考えることにした」
「それがこの、極端に高い塀と深い濠でございますか?」
「そうじゃ、鹿が逃げれないような深い濠と塀を設ける。そこに生け捕りにした鹿を放して飼うのじゃ」
「漢方薬を安定的に採るたためでございましたな?」
「そうじゃ、春に鹿の角が脱落した後で新生する幼角を乾燥した鹿茸は、特に高価に売買できる。漢方薬の中でも、精力剤は特によく売れる。だが採れる季節が限定されるので、鹿茸が安定的に採取できれば、軍資金の柱にできる!」
「承りました、それと新たな難民のために作る、小屋や屋敷の周りに棚を設けるのですな?」
「そうだ、春には多くの甲州葡萄の種と枝が手に入る。それを小屋や屋敷の周りに植え、屋根の上に実らせる。敵が襲撃した時に迎え討つ、城壁の上に設ける屋根の上も同様じゃ」
「承りました」
「必ず成功するとは申さん、考え得るあらゆる手を試し、少しでも甲斐を豊かにするのじゃ」
「は!」
「飛影、購入した牛馬は民に貸し与え使役させよ。ただし、肥育繁殖も責任をもって行わせるのだ」
俺は黙って側に控えていた飛影に話しかけた。
「承りました」
「子を育てるのに必要な乳を与えた後で、余剰の乳は食料として活用いたせ」
「承りました」
「牛馬を養うのに、1頭当たり10反以上の田畑が必要だろう。1800町の田畑を開墾いたしたが、保有する牛馬は350頭ほどであったか?」
「買い増しいたしましたので、牝馬が238頭、牝牛が127頭となりました」
「できるだけ公平に貸し与えてやってくれ。種付けを必ず行い、来年には倍増させるよう努力する様に。また万が一死ぬようなことがあれば、牛黄など漢方薬の材料になる物は必ず確保するように」
「承りました」
「ところで、以前指導した新しい肥料の作りは順調か?」
「はい、しかし5年もかかる肥料作りは必要なのでしょうか?」
「どうしても必要だ、必ず成功させよ!」
俺は稲の実りが倍増する肥料と偽(いつわ)り、硝石作りを始めさせた。これだけは、絶対他国に知られるわけにはいけない。だから支配下に置いた高遠・竜ケ崎・荒神山の3城内に、硝石を生産する小屋を作ったのだ。硝石の生産法は2つ試した、1つは硝石丘法、1つは培養法。
普通はこんな方法を知っている人間はいない。だが俺は、ネット小説を書く事が趣味で、特に歴史シミュレーション物が大好きだった。だから日本では自給自足の難しい、硝石の生産方法を色々調べた事があったのだ。
その時に富山県の図書館で、「五箇山における生産方法」を見つけて読み、頭に叩き込んでいたのだ。そしてこの時代に生まれ変わった事を知った時に、万が一前世の記憶が消えてしまう可能性を考慮し、いろいろな知識や技術を書物にしておいたのだ。
だが硝石の作り方だけは、絶対に敵に知られる訳にはいかない。知られるとしても、出来るだけ時間的な有利を確保しておきたい。高品質の硝石を、できるだけ効率的に作るには5年と言う月日が必要だが、逆にこれが俺の時間的有利さにもなる。
俺以外の人間が、肥料と思って作っていたものが、硝石だと分かるのは最短でも5年後になる。この5年の長さが、俺を戦国で生き残らせてくれるかもしれない。
だが全部を自分でできない以上、誰かに任せるしかない。そして任せる人間には、事細かに生産方法を書き記した書物を貸し与えるしかないが、それは絶対の忠誠心を持つ者だけに限られる。いまその相手は、飛影と虎昌だけだろう。
「承りました」
「これに携わるのは厳選した者に限らせよ、家族を持ち、甲斐を故郷にする覚悟を持ち、我に忠誠を誓う者だけじゃ」
「椎茸作り、貝の養殖、蜂蜜飼い、蚕の洞窟管理と同じでございますな?」
「そうじゃ、他国に秘密が漏れることは絶対にあってはならん」
「承りました」
「虎昌、この縄張りで以上の物を城内に収め切れるか?」
自分が書き記した縄張りで、全ての生産拠点が収まるか飯富虎昌に確認した。
「これからも、若殿を頼って多くの民が集まりましょう。いっそ竜ケ崎と荒神山の2城は、郭と城壁を山側にもっと拡張いたしましょう」
「そのほうがよいか?」
「城内の収容力が格段に増えまする。若殿が密かに設けようとされている、肥料小屋をたくさん作れましょう」
「分かった、新たな縄張りを書に示してくれ」
「承りました」
「若様、大丈夫ですか、つらくはないですか?」
「昌世こそつらいだろう、儂は近習に背負ってもらうから、もう降ろしてくれてよいぞ」
「なぁに、全然平気です!」
子供の俺に山狩りは厳しい。飯富虎昌が居れば奴が背負うのだろうが、今回は曽根昌世が背負ってくれた。甘利信忠と、どちらが背負うか争いがあったようだが、俺は関知(かんち)していない。
「若様は近習に、飯富虎昌の猶子をお加えになられたとか?」
「それがどうかしたか?」
「虎昌の猶子を近習に加えたのなら、我が息子も加えて頂いて当然ではないでしょうか」
「だが昌世の息子は、儂と同じ6歳ではなかったか? あまりに早いであろう?」
「されど若様は、もう一人前のお働きでございます」
「そう焦るでない、だがどうしてもと申すのなら、勉学だけは共にいたしてもよいぞ」
「真でございますか、有難き幸せでございます!」
「ただし! 我が教えている小人の子供たちと同席じゃ!」
河原者や山窩が多い難民は、そのままの身分で俺の側にいるのは争いの元と考え、全員武家奉公人としての地位を与え、側近くの雑用係と体裁を整えた。
「結構でございます、真にありがとうございます」
「そろそろ交代いたせ、いざという時のために余力は残しておくものだぞ」
「承りました」
俺は32騎に増えた近習衆に、交代で背負われることになった。
高遠城:大広間
「若殿、新たな縄張りですが、理由をお聞かせいただけますか?」
飯富虎昌は高遠城の城代に成っている。今まで虎昌が城代を務めていた福与城は、虎昌が選んだ者に任せた。水腫病保菌者の恐れがある1000兵は、可哀想だが隔離しなければならない。基礎的な訓練は虎昌がしてくれたので、後は虎昌の家人に任せればいい。その上で、高遠・竜ケ崎・荒神山の3城を拡張増築した。
「牛馬の乳の量が、儂の考えていたよりはるかに少なかったのだ。河原者に任せれば増えるかと思ったのだが、残念ながら駄目であった。それで別の手を考えることにした」
「それがこの、極端に高い塀と深い濠でございますか?」
「そうじゃ、鹿が逃げれないような深い濠と塀を設ける。そこに生け捕りにした鹿を放して飼うのじゃ」
「漢方薬を安定的に採るたためでございましたな?」
「そうじゃ、春に鹿の角が脱落した後で新生する幼角を乾燥した鹿茸は、特に高価に売買できる。漢方薬の中でも、精力剤は特によく売れる。だが採れる季節が限定されるので、鹿茸が安定的に採取できれば、軍資金の柱にできる!」
「承りました、それと新たな難民のために作る、小屋や屋敷の周りに棚を設けるのですな?」
「そうだ、春には多くの甲州葡萄の種と枝が手に入る。それを小屋や屋敷の周りに植え、屋根の上に実らせる。敵が襲撃した時に迎え討つ、城壁の上に設ける屋根の上も同様じゃ」
「承りました」
「必ず成功するとは申さん、考え得るあらゆる手を試し、少しでも甲斐を豊かにするのじゃ」
「は!」
「飛影、購入した牛馬は民に貸し与え使役させよ。ただし、肥育繁殖も責任をもって行わせるのだ」
俺は黙って側に控えていた飛影に話しかけた。
「承りました」
「子を育てるのに必要な乳を与えた後で、余剰の乳は食料として活用いたせ」
「承りました」
「牛馬を養うのに、1頭当たり10反以上の田畑が必要だろう。1800町の田畑を開墾いたしたが、保有する牛馬は350頭ほどであったか?」
「買い増しいたしましたので、牝馬が238頭、牝牛が127頭となりました」
「できるだけ公平に貸し与えてやってくれ。種付けを必ず行い、来年には倍増させるよう努力する様に。また万が一死ぬようなことがあれば、牛黄など漢方薬の材料になる物は必ず確保するように」
「承りました」
「ところで、以前指導した新しい肥料の作りは順調か?」
「はい、しかし5年もかかる肥料作りは必要なのでしょうか?」
「どうしても必要だ、必ず成功させよ!」
俺は稲の実りが倍増する肥料と偽(いつわ)り、硝石作りを始めさせた。これだけは、絶対他国に知られるわけにはいけない。だから支配下に置いた高遠・竜ケ崎・荒神山の3城内に、硝石を生産する小屋を作ったのだ。硝石の生産法は2つ試した、1つは硝石丘法、1つは培養法。
普通はこんな方法を知っている人間はいない。だが俺は、ネット小説を書く事が趣味で、特に歴史シミュレーション物が大好きだった。だから日本では自給自足の難しい、硝石の生産方法を色々調べた事があったのだ。
その時に富山県の図書館で、「五箇山における生産方法」を見つけて読み、頭に叩き込んでいたのだ。そしてこの時代に生まれ変わった事を知った時に、万が一前世の記憶が消えてしまう可能性を考慮し、いろいろな知識や技術を書物にしておいたのだ。
だが硝石の作り方だけは、絶対に敵に知られる訳にはいかない。知られるとしても、出来るだけ時間的な有利を確保しておきたい。高品質の硝石を、できるだけ効率的に作るには5年と言う月日が必要だが、逆にこれが俺の時間的有利さにもなる。
俺以外の人間が、肥料と思って作っていたものが、硝石だと分かるのは最短でも5年後になる。この5年の長さが、俺を戦国で生き残らせてくれるかもしれない。
だが全部を自分でできない以上、誰かに任せるしかない。そして任せる人間には、事細かに生産方法を書き記した書物を貸し与えるしかないが、それは絶対の忠誠心を持つ者だけに限られる。いまその相手は、飛影と虎昌だけだろう。
「承りました」
「これに携わるのは厳選した者に限らせよ、家族を持ち、甲斐を故郷にする覚悟を持ち、我に忠誠を誓う者だけじゃ」
「椎茸作り、貝の養殖、蜂蜜飼い、蚕の洞窟管理と同じでございますな?」
「そうじゃ、他国に秘密が漏れることは絶対にあってはならん」
「承りました」
「虎昌、この縄張りで以上の物を城内に収め切れるか?」
自分が書き記した縄張りで、全ての生産拠点が収まるか飯富虎昌に確認した。
「これからも、若殿を頼って多くの民が集まりましょう。いっそ竜ケ崎と荒神山の2城は、郭と城壁を山側にもっと拡張いたしましょう」
「そのほうがよいか?」
「城内の収容力が格段に増えまする。若殿が密かに設けようとされている、肥料小屋をたくさん作れましょう」
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