「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集3

克全

第10話

「ウギャァァアァァァア。
ウッウッ
死ぬ、死ぬ、死ぬ」

「しっかりしろ、バルナベ!
大丈夫だ!
必ず助けてやる!」

可哀想に。
このままでは絶対に助からないですね。
この村に来る途中で受けた、獣の噛み傷から毒が入っています。
傷口も膿んでいて、高熱を発しています。
父親も助からない事を理解しているのでしょう。
沈痛な表情を浮かべています。

私が守護を受けている三柱の神々は、治療神ではありません。
ですが、トヨウケ神は万病に効く薬酒を生みだされた方です。
当然ですが、万病の事を知らずに薬など作れはしません。
万病の症状を知り、それに効能があるように薬草を組み合わせ、薬酒を完成させられたのです。

そのトヨウケ神の聖女に選ばれ、守護を受けた私には、万病に対する知識がありますし、薬酒を作ることができます。
自分のためにも、村の人達のためにも、大量の薬酒を醸造てあるのです。
だから、この若者を助けようと思えば助けることができます。
ですが、私が万病に効く薬を作れると知れられてしまったら、この国の権力者に囲い込まれ、この村から連れ去られてしまう事でしょう。
私は、この安住の地を失う気にはなれません。

「娘さん!
この村に高司祭様がおられないのは分かっている。
だが近隣の村にはいるのではないか?
私が知らない間に、大神殿から派遣されているのではないか?!」

本当にこの若者の事を大切に思っているのですね。
養父母の話では、年に一度この村に宿泊する大商人だそうです。
大商人なら当然の話ですが、旅程で使う道や都市や村の事は事前に調べています。
この若者のように、簡単に死につながる事件事故が起こるのが、旅です。
少しでも危険度を低くするために、旅程で受けられる治療も調べているはずです。

だから、この近隣に奇跡の治療を施せることができる高司祭がいない事は、この男にも分かっているはずなのに、聞いてしまうのですね。
それに、この若者の状態では、高司祭の奇跡の治療でも助からないでしょう。
獣の毒も、膿んで生まれた新しい毒も、脳と内臓を侵しています。
高司祭程度の奇跡では助けられないです。

「残念ですが、近隣には貧しい村々しかありません。
このような場所に来てくださる高司祭様はおられません」

大商人の顔に諦めの表情が浮かんでいます。
護衛の一人を高司祭がいる都市まで走らせたと言っていましたが、時間的に間に合わないし、力量的にも治療するのは不可能です。

「娘さん。
この村にエリクサーはないか?!
あれば金百枚だそう。
いや、この場で金二百枚出す。
この村でなくてもいい。
エリクサーを持ってる村や人の事を聞いたことはないか!?
教えてくれたら情報料を渡す。
頼む!」

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