「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集3

克全

第8話

私には悩みがある。
個人的な恨み辛みはもちろんありますが、そんな事よりも優先しなければいけないのは、ロキ神の野望です。
それを知っていて、何もしないのは、怠惰で卑怯ではないのかと、自分を責めてしまうのです。

ですが、三柱の神から聖女に選ばれているとはいえ、私は単なる人間です。
神々の中でも最強の一角を占めるロキ神に挑むなど、私には不可能です。
逃げられるだけ逃げるしかないのです。
安全な場所を探して隠れているしかないのです。
この村にたどりつくまでは、そう思っていました。

でも、この村にたどりついて、年老いた居酒屋の夫婦を見捨てることができず、お世話してるうちに、村の人達を助けたいと思ってしまったのです。
そう思ってしまうくらい、純朴で優しい人達なのです。
私ごときでは、ロキ神の邪魔をする事など不可能と思う気持ちと、村の人達を助けたいと思う気持ちが、私のなかでせめぎ合うのです。

結局、私の悪い癖が出てしまいました。
問題のお先送りです。
グズグズ、ダラダラと何気ない日常を愉しんでしまっています。
村の人達と狩りをして、獲物を美味しい料理にする。
そして、リンゴ酒を飲んで歌い踊り愉しむのです。

「レオルナさん、今日は私達を指名してくれてありがとうございます。
お陰で子供達に連日肉を食べさせてやれます」

「いえ、いえ、どういたしまして。
荷運びと解体を手伝ってもらいたいので、猟師さんでなくても大丈夫なんです。
猟師さんと私が狩りに成功したら、村の冬ごもりが楽になりますから」

私は今日も森に狩りに入る事にしました。
昨日狩った大猪の肉は、まだたくさん残っています。
痛みやすい部位は昨日全部ふるまいましたから、残っている部位は加工して保存食にしています。
だから狩り自体は五日後でも大丈夫なのですが、昨日嫌な話を耳にしたのです。

貧しいこの村の中でも特に貧しい家が、冬ごもりの準備ができず、家族が生き延びるために、娘を奴隷に売らなければいけないというのです。
そんな事は絶対に我慢できません!
私がこの村にいるのに、娘を奴隷に売る家がでてしまうなど、絶対に嫌なのです!
だから、その一家を含めた貧しい家の人達に、狩りの手伝いをしてもらう事にしたのです。

今日狙いのはヘラジカです。
大型のヘラジカは、千キロを超える巨体で捨てるところがない獲物です。
皮は丈夫な革製品に加工することができます。
大きな角は薬の材料にすることができます。
肉は脂身が少なく栄養豊富で、保存食に適していますし、ステーキにしてもハンバーグにしてもとても美味しいのです。



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