「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集3

克全

第6話

「やれ!
裸にひんむいて、床に押さえつけろ!」

「「「「「はい!」」」」」

(闇の神具を発動しなさい)

ツクヨミ神のお言葉が届きました!
ロキ神の守護を破ってお言葉を届けてくださいました。
反射的に魔法袋から月詠太刀を取り出してすらりと抜くと、一面が真っ暗になりましたが、私の眼は夜目が利くようになっているので、全く不自由はありません。

「うわ?!」
「なんだ、なんだ、なんだ?!」
「何も見えんぞ」
「ギャアアアアア」
「敵だ!」
「女が斬り付けてきたぞ」
「殺せ!
殺してしまえ!」

(今のうちです。
今のうちに中庭に出て逃げるのです)

助かりました。
三柱の神様から加護を受けていますが、ロキ神に対抗できるのはツクヨミ神だけで、他の二柱の神様では対抗できないのです。
それでも、ロキ神の力が満ちているこの国では、圧倒的に不利だそうです。

ツクヨミ神の神具、月詠太刀の力がロキ神に封じられる前に、できるだけ遠くに逃げなければ、貞操を守れません。
貞操を守るためには、自害を選ぶしかなくなります。
母上の敵を討つ前に、死ぬわけにはいきません。
敵に、ドゼル侯爵に背中を見せるのは忸怩たるおもいですが、仇討ちも生き残ってこそできるのです。

それに、卑怯な裏切り者達、不忠者達は、自分の行いを恥じているからこそ、疑心暗鬼になるのででしょう。
事もあろうに、裏切り者同士で殺し合いを始めてくれました。
この機に乗じてドゼル侯爵を殺したい気持ちでいっぱいですが、自分が死傷することなく、必ずドゼル侯爵を討てると断言できません。
どれほど悔しくても、ここは逃げるしかないのです。

私は後ろ髪の引かれる思いで逃げ出しました。
中庭を突き切り、もう一度王宮内に入り、宮殿の外に出られるように、迷路のような通路を間違える事なく、一直線に抜けました。

「王太子殿下に追放刑にされました。
このまま国外に出ていきます。
通過させてください」

「そうですか……
最近は治安が悪くなっています。
気を付けて行かれて下さい」

私が嘘をついて城門を抜けようとすると、門番が親切に言葉をかけてくれました。
まだこの国も完全に腐っている訳ではないのですね。
身分の低い者ほど、まだ良識を保っているのかもしれません。
こんな善良な人達が、王家や下劣な高位貴族に為に、苦しむことがなければいいのですが、虚しい願いなのでしょうね。
この国の滅びは、約束されてしまっているのかもしれません。
ロキ神の本性を、ツクヨミ神から教えていただいた私には、諦めの気持ちしかありません。


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