「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集3

克全

第3話

「ゴードンさんはホイストはできますか?」

「いや、難しい数字の計算は苦手なんだ」

マリーが思っていた通りだった。
短時間話しただけで、計算が苦手だろうと予測できていた。
ゴードンを加えて、難しい計算や駆け引きが必要なトランプゲームでの賭け事は、とても不可能だった。

「ケヴィンさん。
私の一夜の恋を賭けるのなら、勝負というよりは神託がいいと思うのです。
ケヴィンはそうは思われませんか?」

賭場の空気がまた凍り付いた。
今までに誰も触れなかった、大神官の身分に触れかけたのだ。
だが直接触れたのではなく、自分の一夜を神にゆだねるというのだ。
大神官のケヴィンに断ることなどできなかった。
同時に負けても因縁が付けられず、逆恨みする訳にはいかなかった。

「ではサイコロ一つを使って、誰が一番大きな数を出すか当てましょう」

「分かった。
それでいい」

「おお、俺もそれでいいぞ」

後は簡単だった。
金貨三十枚を手持ち金に、毎回金貨一枚を賭けて勝負する。
なんの計算も駆け引きも不要な、運だけが必要な勝負でだ。
マリーには賭け事の神様、ヘルメース神がついている。
決して負ける事はない。

だが、簡単に勝つわけではない。
ヘルメース神は狡知に富み詐術に長けた計略の神でもある。
ケヴィンはもちろん、この勝負を興味津々な見物人に、わずかでもイカサマを疑われないように、一進一退の勝負を繰り返す。
マリー、ケヴィン、ゴードンの三人は、真剣勝負で一進一退を繰り返す事になる。

必要なら、ゴードンに力を貸すつもりだったマリーは、少し驚いていた。
ケヴィンはマリーと博打に狂ったとは言え、もとは大神官に選ばれるほど敬虔な神の下僕なのだ。
ヘルメース神の聖女であるマリーと好勝負するのもいつもの事だ。
普通の神の下僕とヘルメース神の聖女が博打で勝負すれば、最後はヘルメース神の聖女マリーが勝つ事になる。

そんなかにあって、ゴードンが好勝負をしている。
なんらかの神に祝福されているのは明らかだった。
自由戦士であることを考えれば、戦の神、武神が軍神だと考えられる。
それほど賢明ではないので、軍略も兼ね備えた軍神ではなく、個の武勇を誇る武神だと思われた。

「さあ、もうこれで最後ですね。
今宵はよい勝負ができましたが、そろそろ夜明けでございます。
一夜の恋を語る時間もなくなりました。
金貨三十枚の差は生まれませんでしたね」

「いいや、待ってくれマリー。
最後の勝負に全て賭けさせてくれ。
このままでは引くに引けない」

「おお、いいぞ。
俺も最後に全額賭けて構わんぞ」



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