「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集3

克全

第2話

「ほう!
噂通りのベッピンさんだなぁ。
俺も参加していいのかな?

「ええ、いですよ。
ですが貴男様の事は何も知らないままでは、お受けできません。
自己紹介してくださいませんか?」

マリーには最高の闖入者だった。
一対一で勝ち続けたら、大神官ケヴィンに逆恨みされてしまう。
神殿に逆恨みされたら、命懸けの戦いをしなければいけない。
今の犯罪者ギルドなら、相手が神殿でも勝てると思っていたが、犠牲になるモノが大きすぎる。

だが大きな損を誰にも与えずにマリーが勝てば、神殿と争わなくて済む。
マリーの勝ちを少なくして、大神官ケヴィンと闖入者の間で勝ち負けを競い合い、わずかな差で二位三位となってくれればいい。
博打の聖女という、名声とも言えない評判には傷がつくが、神殿と全面対決するよりはましだと、マリーは判断したのだ。

「俺かい?
それは自由戦士ギルドのゴードン・ジェームスという。
この都市には美人のギャンブラーがいると聞いて、その顔を拝みに来たんだ」

マリーは少し驚いた。
自由戦士というのは、特別に選ばれた戦士だ。
戦闘力は当然並みの傭兵など足元に及ばないが、信義の面でも別格だった。
裏金で買収されて依頼者を裏切るような事はないし、戦況が悪くなったからといって、依頼者を見捨てて逃げだす事もない。

一旦正式に契約を交わした依頼主のためなら、命を賭けて戦うのだ。
もし自由戦士の名を穢すような卑怯な振る舞いをしたら、自由戦士ギルドが討伐の戦士を派遣し、地の果てまで追いかけるのだ。
だが同時に、依頼主にも覚悟を求めていた。
自由戦士を騙すような依頼をしたり、途中で契約に違反して自由戦士を裏切るような真似をしたら、自由戦士ギルドの刺客に殺される事になるのだ。

「疑うようなことはしたくないのですが、自由戦士の方が博打をされるのですか?
噂で聞く自由戦士の方の評判とは違うのですが?」

「そんな事はないぞ。
自由戦士といっても普通の男だ。
博打はほとんどやった事ないが、美しい女は大好きだ。
依頼先の売春宿には必ず通うぞ。
ほら、この星の刺青を確認してくれ。
自由戦士ギルドにゴードン・ジェームスが所属しているか聞いてくれてもいぞ」

これはマリーも困った。
ゴードンを加えて博打をするつもりでいたが、ほとんど博打をしたことがないなら、大神官ケヴィンに勝つのは難しい。
マリーが調整すれば不可能ではないが、かなり露骨な現象を起こしてしまう。
ここは非常手段を使うしかないと、マリーは覚悟を決めた。

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