「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集3

克全

第5話

今直ぐこのクソババアをぶち殺したい。
本当に血の繋がった姪なのか、他人なのかはどうでもいい。
幼い子供に客をとらせて商売するのなら、最低限のルールは守れ。
病気にならないように予防し、病気になったら治療をしろ。
餓えないように食事を与えろ。
これがハミルトン伯爵から叩きこまれた鉄の掟だ!
自由になった身でも、この掟だけは絶対に忘れない。

だがクソババアをぶち殺す前にやらなければいけない事がある。
虐待されているのが、この子と姉だけかどうかだ。
この国の売春はハミルトン伯爵がしきっている。
ハミルトン伯爵が陰で首領を務める犯罪者ギルドの収入源だ。
闇で売春をやっているのなら、絶対に見逃す事はできない。

「きゃ、いたい」

クソババアは邪険に女の子を突き飛ばし、玄関のドアを閉めてしまった。
突き飛ばされた女の子は、膝をすりむいて血を流している。
もう見ているだけではいられない。

「お嬢ちゃんどうしたの?
お腹空いたの?
お姉ちゃんが病気なの?」

「おねえちゃん、だれ?
たすけてくれるの?
わたしのおねえちゃんをたすけてくれるの?」

「ええ、助けてあげるわよ。
だからお姉ちゃんのいる所に案内して」

痩せ細った女の子に案内された場所は、この家の裏にあるゴミ捨て場でした。
家の屋根裏部屋さえ与えられず、外で犬以下の状態でした。
あまりの怒りに、眼の前が真っ暗になるくらいでした。
私が最初に見た女の子が七歳くらい。
ミイラかと見間違うほど痩せ衰えた、姉というのが十歳くらいに見えます。

十歳の女の子に客をとらせていたというのか?!
病気をうつされるほど頻繁に、客をとらされていたというのですか!
それなのに、このような場所に、うち捨てるというのですか!
暗殺者として、聖女として、治療の技を会得していますが、その私でも、助ける事ができないと、断念してしまうほどの状態です。

女の子に、姉を助けると約束したというのに。
その舌の根も乾かないうちに、助けられないと言わなければいけない。
何と情けないことでしょう。
私に、本当に聖女の力があれば、この姉でも助ける事ができたのに!

なぜ私には本当の聖女の力がないのですか?!
治療神や薬神ほどの治癒能力が欲しいわけじゃない!
どのような神でも持っている、最低限の治癒能力でいいのです。
その治癒能力と私の技を併せれば、この子でも治す事ができるのに。
月神コンス様、どうか私にもっと力をください!

月神コンス様が求められる貢物を捧げます。
ですから、どうか、私に力を授けてください!



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