「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集3

克全

第51話

「ママ、昨日夢を見たよ。
ティシュトリヤの子供達が沢山いたわ。
とてもかわいかったの」

「まあ、ネイも同じ夢を見たのね。
ママも同じ夢を見たわ。
本当かどうか確かめに行きましょう」

私は本当に久しぶりに夢を見ました。
また悪夢が再現されるのかと思い、夢の中で身構えてしまいました。
ですが、ぜんぜん悪い夢ではありませんでした。
大恩のあるティシュトリヤの夢です。
しかもティシュトリヤの子供が生まれる夢なのです。
直ぐに確かめに行こうとしたら、一緒に寝ていたネイが、うれしそうに同じ夢の話をするのですから、一緒に確かめるしかありません。

「ヒィィィィイン!」

眼の前に多くの馬がいます。
いつの間にか馬が増えています。
普通なら父か家臣が増やしたと思うのでしょうが、夢の後ではそうは思えません。
どう考えてもティシュトリヤが連れてきたのでしょう。

ですがおかしいです。
年齢があいません。
今年生まれたティシュトリヤの子供なら、零歳馬のサックリングかウィリングのはずなのに、どこをどう見てもコルトかフィリーです。
ホースやメアには見えませんが、若駒であるのは間違いありません。

「わぁぁあぁぁぁ!
かわいいい!
ママ、ママ、ママ、ママ。
さわっていい?」

「ティシュトリヤに聞いてごらんなさい。
ティシュトリヤがいいと思ったら、子供達を連れてきてくれますよ」

「ティシュトリヤ!
いっしょに遊びたいの。
だめ?」

「ヒィィィィイン!」

ネイの呼びかけに答えるように、いえ、答えてくれたのでしょう。
ティシュトリヤが嘶き、多くの若駒が集まってきました。
でもネイの近くに来たら、勢いを抑えてゆっくりと歩んでくれます。
十数頭の若駒が、順番にあいさつするように、ネイに頬ずりしてくれます。
ネイが満面の笑みを浮かべているので、私もうれしくなります。

「ヒィィィィイン!」

ティシュトリヤが私に自慢するように嘶きます。
子供を自慢しているのでしょうか?
それともネイも護ってやると言ってくれているのでしょうか?
完全に理解する事はできませんが、私達のためなのは確かです。
私のためだけに行われたのなら、私だけが夢を見たはずです。
ネイのためだけに行われたのなら、ネイだけが夢を見たはずです。
しかし少し心配になります。
私達に危険が迫っているので、若駒を連れてきてくれたのでしょうか?

『年齢による馬の名称の違い』
「零歳馬」
フォール  :一歳未満の仔馬、母胎にいる時点でも使われる
サックリング:離乳前の仔馬
ウィリング :離乳後の仔馬
「一歳馬」
イヤリング :一歳馬
「二歳馬」
(牡馬)
コルト   :二歳から四歳
ホース   :五歳以上
スタリオン :種馬となった牡馬(種牡馬)
サイアー  : 父馬
(牝馬)
フィリー  : 二歳から四歳
メア    :五歳以上
ブルードメア:肌馬となった牝馬(繁殖牝馬)
ダム    :母馬
(騸馬)去勢馬
ゲルディング:去勢馬

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