「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集3

克全

第48話

「単刀直入に言う、帰ってきてくれ。
ディビッドの馬鹿が野垂れ死にした。
公爵家の面目を潰す、恥さらしな死に方でだ。
あれほど女に誑かされるなと言ったのに、聞く耳を持たなかった。
もはや公爵家を継げるのはお前しかいない。
この通りだ。
帰ってきてくれ」

頑固な父が頭を下げています。
ですが何の感慨も憐憫の情もわきません。
私を、女を、道具としか見ていません。
自分の血を残すための道具です。
でも、だからこそ、私も情を絡めないで交渉することができます。

「従弟達がいるではありませんか。
女の私が継ぐよりも、彼らの中から選べばいいではありませんか」

「駄目だ!
絶対に駄目だ!
私が家督を継ぐときに、表にだせない暗闘があったのだ。
母の頼みで生かしてやっているが、そうでなければ殺している」

分かっていましたよ。
父がそういうのは予想していました。
交渉を有利にするために、最初にふっておいただけです。
王家も従弟達に継がせばいいと考える事を、父は恐れています。

「私が家督を継ぐなら条件があります。
結婚を強要しない事です。
家柄で結婚相手を決めたら、その日に逃げますよ。
王に従弟を跡継ぎにするように手紙を送って逃げますよ」

「うぬぬぬぬ!
この男共から夫を選ぶと言うのか?!」

「それは分かりません。
身分に相応しい相手から、愛する人が現れるかもしれません。
ただ、冒険者を経験した私が心服できないような軟弱者は、絶対に夫にできないと言っているのです」

「……ハルトのような漢ならいいのか?」

「そうですね。
ですがハルト程度では弱すぎます。
ハルト程度なら私でも簡単に勝てます。
私に軽くひねられるような男は、夫とは認めません」

「な?!
本当なのか、ハルト?!」

「本当でございます。
私など、お嬢様の足元にも及びません」

「……わずかな間に、そこまで強くなっていたのか……」

わずかではありませんよ。
周りに隠してきたから知られていないだけで、ずっと鍛錬してきたのです。
魔術も体術も、生き残るために鍛え続けてきたのです。

「それに、私は中継ぎと割り切ればいいではありませんか。
父上の事ですから、子供を作ろうとしているのでしょ?
年の離れた弟ができて、後継争いになるのは好みません。
私が独身でいる方が、問題が起こらなくていいでしょ」

「だが、子供が生まれなかったらどうする。
努力はするが、私も歳だ。
必ず子供が授かるとは限らないのだぞ」

やれ、やれ。
やはり子供を作ろうとしていましたね。
それで私に帰ってこいなんて、身勝手ですね。
まあ、でも、後継者が一人前になる前に、父が死んだら大変なのは確かです。
叔父達や従弟達が後継争いで殺し合うのが目に見えています。
だからこそ優位に交渉できるのですが。

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