「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集3

克全

第41話

「ポーラ、どうする」

ウィリアムが私に聞きます。

「嫌!
絶対に嫌!
捨てないで!
私を捨てないでママ!」

私が答える前に、泣き叫ぶようにネイが答えます。

「心配しなくても大丈夫よ。
ママは絶対にネイを捨てたりしないわ。
だからそんなに泣かないの。
ね?」

私は優しく、でも強くネイを抱きしめました。
ネイがここまで不安に思い恐怖しているのも仕方がありません。
恐らくネイの祖父であろう、サンテレグルラルズ王国の国王クライムが、ネイに王孫女の地位を与えるから戻って来いと使者を送ってきたのです。

これはとても悩ましい状況です。
私には地位に対する執着はありません。
あの悪夢の日々が、地位より命が大切だと思わせてくれました。
ですが人によって大切なモノは違います。
そしてその考えは、経験を重ねる事で変わるモノです。

それが分かっているからこそ、ウィリアムも確認してくれたのです。
しかし、それがネイを不安にさせたのでしょう。
ウィリアムもイライアスと相談して口にしたのでしょうが、ネイの反応がここまで強烈だとは思っていなかったようです。
慌ててフォローしてきました。

「ああ、ごめん!
悪かった!
全部俺が悪かったから泣き止んでくれ。
帰らなくていいから。
いや、そうじゃないな。
いかなくていいから。
ネイの家はここだから。
ポーラママはもちろん、俺達もネイを手放さないから。
だから泣き止んでくれよぉ。
おい、イライアス!
俺にだけ嫌な役を押し付けるな!」

これは珍しモノを見せてもらいました。
完璧な役割分担をしてきたウィリアムとイライアスが初めて役目で争っています。
この二人にとっても、ネイは可愛い存在なのですね。
このような態度を見れば、少しは安心してネイを預けることができます。

でも、よほどのことがない限り、ネイの事を他人任せにはしません。
その他人の中に、ウィリアムとイライアスも含まれます。
親切で信用できるのは間違いありませんが、価値観に差があるのも確かです。
魔法の鎧の時には、状況判断を誤っています。
彼らも完璧ではないのです。

「ママ、逃げよう。
ここは見つかっちゃったよ。
ここにいるのは怖いよ。
ママ、ママ、ママ。
ネイ怖いよ。
ここにいるのが怖いよ」

さてどうすべきでしょうか?
これまでも拠点を転々と移動しています。
またここで移動するとなると、大きな損失になります。
取り返す事はできると思いますが、負担なのは間違いないのです。
特にアマゾーン達の事があります。

彼女達を牧場から引き離す事はできないです。
ですが、当面資金援助をしなければ厳しいだろう思います。
もし移動するとなれば、距離的にも資金的にも資金援助を続けるのは厳しいです。
腹を割って話し合う必要があります。


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