「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集3

克全

第35話

私たちは再び関所破りをしました。
偽造書類があるので、徒歩の時は正々堂々と関所を超えます。
ですが今回は、それぞれ軍馬にまたがっています。
騎士を乗せられるような、鍛え抜かれた軍馬は、売れば一財産になりますから、関所で莫大な税金をかけられてしまいます。
なので今回は関所を通らずケングロス王国に入りました。

暁の騎士たちと私は、牧場から牡馬を選んで乗ってきました。
一番二番に体格と頭がいい牡馬は、種馬にすべく牧場に残しました。
子が生める牝馬も当然牧場に残しました。
選んだ牡馬は、多くの軍馬の下から順番となりますが、そもそもどの子も軍馬になれたくらいの名馬ぞろいですから、何の問題もありません。
ネイは私と相乗りしたがりましたが、いざという時の事を考え別々です。
私の愛馬、ティシュトリヤに乗せる以外の選択はありません。

今回馬にこだわった理由は、ケングロス王国の魔境が荒野だからです。
奥に砂漠が広がる、広大な荒野・半砂漠の魔境なのです。
それこそ独特の魔獣が住んでいて、単価の高い珍しい魔獣がいます。
ではなぜ冒険者が集まらないかといえば、魔獣の密集率です。
水が少ないと人間が住みにくいのと同じように、魔獣も住みにくいようです。
広大な魔境に魔獣が点在するので、狩りをするには効率が悪いのです。

「いいかい、血を撒くからね。
相手は毒をもっているから、魔力を惜しまず、一撃で斃してくれ」

ウィリアムが指揮を執ります。
ここは慎重派のウィリアムの出番のようです。
相手は十メートル級の強力な魔毒蛇です。
高価な解毒薬がなければ、噛まれれば確実に死にます。
いえ、それだけではありません。
巻きつかれたら、強烈無比の締めで、全ての骨を折られて圧死してしまいます。

私達には解毒の魔法書があるから大丈夫ですが、普通の冒険者では採算が合わないので、ひたすら逃げの一手です。
こういう点も、この魔境が冒険者に人気がない要因です。
でも解毒薬を使わずに魔毒蛇は狩れれば、とても儲かる魔獣でもあります。
毒腺は暗殺には欠かせない毒ですが、同時になくてはならない解毒薬の素材です。
強固な鱗は、鱗鎧の材料になります。
肉や血は滋養強壮薬、いえ、精力薬や催淫薬には欠かせない素材です。

ウィリアムが、ここだと思われる場所に、魔法袋からだした血を撒きます。
撒き血にするために、売り物にならない鼠や兎の血を取ってあるのです。
案の定、この魔境固有の魔毒蛇が地面から頭を出しました。
お前は蚯蚓か!
思わず突っ込みを入れそうになります。

そう思った時には、既に無意識で中級上の風魔法を使っていました。
喉の方から魔毒蛇の首を刎ね飛ばしていました。
普通の魔蛇なら、少しでも多くの鱗を回収するために、口から魔術を叩き込んで脳を破壊するのですが、毒腺が高価に売れる魔毒蛇は、毒腺に血が混じらないように首を斬り落とすのです。

「次の狩場に移動する」

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