「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集3

克全

第28話

「逃げるって言っても、ここから逃げるのは不可能じゃないか?」

女盗賊ソフィアの言う通りです。
城壁から行き来する扉には、外から閂がかけられるようになっています。
城壁には常時見張りと警備兵がいます。
左右の側壁塔から遠矢を射る事も可能です。
しかもここは二之丸城壁の側壁塔です。
城壁伝いに逃げたとしても、三之丸の駐屯兵に捕まるだけです。

「私には飛行魔術の魔法書があります。
それを使えば城外にも王都外にも逃げることができます。
問題は時間です。
一人一人に飛行魔術を発動するには、相当の時間が必要です。
その時間稼ぎをして欲しいのです」

少し嘘が入っていますが、全くの嘘ではありません。
全員一度に飛行魔術を発動することは可能です。
ですがその術式には相当の魔力が必要となります。
それができると知られるわけにはいかないのです。

「分かった!
あまり時間稼ぎにならないだろうが、バリケードを築こう。
手伝ってくれ」

ソフィア指示で、四人が一斉に階下に降りて行きました。
しばらくして、激しく扉を叩く音がしました。
そして直ぐに私に呼び掛けてきたのです。

「ルシア嬢、ここを開けてくれ。
その娘を引き渡してくれ。
なに、悪いようにはしない。
その娘には色々と不都合があるのだよ。
だが殺しはしない。
地下牢の幽閉にとどめよう。
応じてくれたらそれ相応の礼をしようではないか。
サンディランズ公爵家の領地を倍にしよう。
おお、そうだ。
ルシア嬢を私の正妃に迎えようではない。
これでルシア嬢を家出に追い込んだ者たちを見返せるのではないか?」

自信満々の言い方です。
私を利で籠絡できると思い込んでいます。
正直虫唾が走ります!
怒りで眼の前が真っ赤になります。
ネイが怯えた目で私を見ています。
扉を乱打する音と、汚い大声で目が覚めてしまったのでしょう。

「大丈夫ですよ。
私は何があってもネイを手放しませんよ。
出会ってからずっとそうでしょ」

「うん!」

ネイは安心したのでしょう。
激しい身体の震えが止まりました。
眼の怯えがなくなりました。
でもまだ私を信じきれない人もいます。
出会って時間も経っていませんし、人の欲も嫌というほど見てきたのでしょう。
アマゾーン四人が私の考えを確かめに戻ってきました。

「私がネイを見殺しにすることはありません。
あれだけの利を提示するのです。
暗にネイを殺すと謎かけしているのです。
私たちがネイを渡しやすいように、でも真実を取り違えないように、莫大な利を提示しているのです。
私の実家に、エルフィンストン王国を裏切らすようにしているのです。
ですがそんな手には乗りません。
私はどれほどの利を積まれても、人間の尊厳を捨てる気はありません!」


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