「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集3

克全

第27話ウィリアム国王視点

情けない話だ。
一国の国王ともあろうものが、子供の顔色を見て暮らさねばならん。
それも、王に相応しかった兄を殺すような、下劣で卑怯な子供のだ!
この国は繁栄し過ぎたのだ。
建国の理念を忘れ、金と権力におぼれる者が増えてしまった。
リーアムなら全てを正してくれただろうに。

せめて、忘れ形見の孫だけでも生き延びて欲しいが、あの腐れ外道が見逃してくれるとは思えない。
女系に王位継承権はない。
ないのに、あの腐れ外道は姉も妹も皆殺しにしやがった。
我が子で生き残っているのは、腐れ外道と同腹のオリバーだけだ。

だがもし余がオリバーに連絡をつけたら、腐れ外道は同腹の弟さえ殺すだろう。
あいつはそういう腐れ外道だ。
余がもう少し早くオリバーを殺す覚悟を決めていたら、歴史は変わっていただろうし、リーアムが殺されることもなかっただろう。

あの者たちが心あるモノだったら、孫を助けてくれるかもしれない。
いや、そんな事は夢物語だ。
譜代の騎士や徒士はもちろん、建国時からの譜代貴族ですらリーアムを見殺しにして、エリアスに媚びへつらっている。
夢物語の漢気や忠誠心を期待するなど、むしがよすぎる。

今頃エリアスは兵を送って彼女らを脅かしているだろう。
脅かすだけではなく、それ相応の利も約束しているだろう。
あやつはそういう手だけは上手い。
特に今は大きな獲物が向こうから現れた。
それを手に入れる為なら、相当な出費もいとわないだろう。
軍馬を、ああ、名前はなんといった。
ああ、ルシアだ。
ルシアと言うサンディランズ公爵家の家出娘だった。

我が国の軍とエルフィンストン王国の軍が正面から戦っておる時に、サンディランズ公爵家が我が国に寝返る。
勝敗を決するくらいの重大な寝返りだ。
エルフィンストン王国の軍が壊滅するくらいの敗北になるだろう。
後は雪崩だ。
エルフィンストン王国のほとんど全ての貴族士族が裏切り、我が国に忠誠を誓うだろう。

エリアスは英雄となり、余は退位させられるだろう。
貴族はもちろん、騎士団と徒士団も手中に治めたエリアスには逆らえない。
殺されないだけましだが、まったくうれしくない。
自分の臆病と無能を見せつけられる思いがするだけだ。

「陛下!
大変でございます、陛下!
冒険者共に逃げられてしまいました!」

なん、だと?
エリアスが褒美を惜しんだのか?
いや、目先の金を惜しむエリアスではない。
最後には与えた全てを奪うだろうが、利用できる間は惜しみなく与える奴だ。
領地を倍にする約束であろうと、ルシアを正妃に迎える約束であると、エルフィンストン王国を併合できるとなれば、平気で約束するだろう。
なのに、それを捨てて逃げただと?!


「サンテレグルラルズ王家の組織図と江戸幕府の比較」

王都警備隊=町奉行所・不浄役人・左遷

王国騎士団=大番組
=小姓番組
=書院番組
=新番組
王国徒士団=小十人組
=徒士組
=御先手組
=鉄砲百人組

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