奴隷魔法使い
第234話朝日魔境・陞爵
『朝日魔境』
「あれは何と言う山だ?」
「あれは大朝日岳・寒江山・龍門山などからなる朝日山地ともうします。」
「ここも確認する、さっきのように魔境と奥山の境界の周囲を回る、皆は奥に控えておれ!」
『は!』
「彩、後は任せたよ。」
「御任せ下さい。」
間食の後で再度魔境の調査に飛んだが、幾人もの人の入れ替えがあった。どうやら王都の屋敷にさっきの調査報告に戻ったのだろう、飯豊魔境の周囲に領地を持つ貴族家には重大問題だから、一刻も早く報告に戻るのは家臣として当然だろう。同時にさっきの調査に間に合わなかった、新手の貴族家の案内役が参加していた。
飯豊魔境まではさっきの行程をなぞり、そこからさらに北上してみたが、直ぐに新たな魔境を発見したのだ。俺の問いに山形子爵家から案内に来ていた家臣が山々の説明をしてくれたが、やはり何時もの様に直接探査する必要がある。
飯豊魔境の時と同じように、俺が狩りをしてボスを誘い出し、ボスを嬲りものにして爪と鱗を素材として確保する。ボスが逃げ去った後で彩が素材・軍資金集めの狩りをする決まった手順で調査を終了した。
ここで悲喜こもごもの案内役が出てくる。村上子爵家・山形子爵家は、新たに狩りが可能と分かった朝日魔境と領地を接していた。だが上山男爵家は残念ながら近隣では有るものの、領地が接していなかった。そして幸いだったのが米沢伯爵家だった、飯豊魔境に続いて朝日魔境にも領地を接していたのだ、1人は屋敷に帰ったようだが残った家臣の喜びようは、見ている此方が驚くほどだった。
『王都・大和家上屋敷』
「殿様、本当に我が家で競売をさせるのですか?」
「そうだよ、なにも赤の他人に大切な汎用魔法袋を貸し出す事も無いし、競売手数料も取られたくはない、家臣の家族達の仕事を確保しないとね。」
「でも少しづつですよね?」
「もちろんだよ、行き成り既存の冒険者組合に全面戦争を仕掛ける心算は無いよ、購買層が多くて家臣家族がいる王都から始めて、異国の商人が確実に参加する長崎を2番目にするよ。」
「そして徐々に増やして行かれるのですね?」
「多摩は昔からの付き合いがあるからね、世話になった組合長の顔を立てるから無理だけど、甲府や諏訪は輸送するか直接現場で競売するか判断に苦しむね。」
「そうですね、襲ってくるような愚か者はいないと思いますが、輸送に当たる者は相当の手練れを配置しなければなりませんね。」
「そうなんだよね、色々人手が必要に成るけど、それが王国の人材活用になって経済もよくなるからね。」
今日の仕事が一息ついた俺と彩は、大型草食魔竜の芯タンステーキをメインディシュに、ゆっくりと夕食を楽しみながら今後の方針を話し合っていた。先に魔力と心身の鍛錬・魔力回復用の大食は済ませている、今の食事は大切なストレス対策だ。
魔樹の実を搾ったジュース・デザート用の魔樹の実・魔竜のミノの下ろしポン酢・魔竜の腿肉の叩き・魔竜すね肉と魔草根のシチュー・魔草のサラダを愉しんだ。魔竜の種によって味わいが違うので、毎日毎食魔竜の食事でも飽きる事は無い。
『王都・王城・御用部屋』
翌日早朝から魔境の調査に行く予定だったのだが、夕食後に来た陛下の使者による、翌日早朝の登城命令で御破算になった。仕方なく東北諸貴族家の案内役に魔境調査中止の使者を出す羽目になったが、王国の命令とあれば仕方が無かった。
「魔境の調査で忙しい中、急に呼びだして済まなかったな。」
「いえ、陛下の御下命と有れば何を差し置いても馳せ参じまする。」
「うむ、大儀である。」
(嘘だよ~ん。陛下は彩の次で2番目だよ~ん。)
(まぁ、嬉しいですが不謹慎ですよ、殿様。)
(好いの好いの、彩にしか伝わらない念話だし、何を差し置いても魔境調査をしろと言った翌日に、魔境調査を中止して登城せよと言ったりするんだから、少しくらい陰口言わないと反感が残るからね。)
(それもそうですね、少しいい加減すぎますね。)
「今回は米沢伯爵から急な願いと献策があってな、魔境調査を優先せよと言った翌日にも拘らず、中止して登城せよと言う朝令暮改に成ってしまった。しかしこの提案は急ぎ実行する必要があり、今日は皆に集まって貰った。」
(念話が伝わったのかね?)
(表情を読まれたのでしたら、今後は注意しなければなりませんね。)
俺と彩は念話で軽口を叩きながら陛下の話を聞いていたが、内心は訝しい思いがあった。それ程の重大な要件・事件が起こったとでも言うのだろうか?
「米沢伯爵からの願いは、領地の内1万石づつ計2万石を王国領・大和子爵領と交換し、早期に奴隷千人砦と囮場・狩場を設置して欲しいと言うものだ。」
(凄いね、昨日昼に報告を受けて即王家・王国に領地の返還を願い出たのだな、即断即決とは武人の鏡だね。)
(左様でございますね、でもそれだけ米沢伯爵家が追い詰められていたと言う事でもありませんか?)
(確かにそうだね、米沢伯爵家の経済的困窮は噂以上なのかも知れないね。)
「そこで余はその願いを聞き届け、今日にでも狩場を設置したいと思っている、何か意見の有る者はいるか?」
(陛下の希望に意見したくはないが、昨日の報告だけはしとかないといけないな。)
(左様ですね、それで領地替えの地が変更になりますものね。)
「陛下、意見ではございませんが、昨日の魔境調査の報告をさせて頂きたいのです。それによって替地の場所が変わってくると思われます。」
「ふむ、それはそうであるな。余や米沢が聞いたのは尊と彩を案内した家臣の話だ、直接調査した2人の説明を聞かねば境界を決める事は出来ぬな。」
「その通りなのではございますが、今回は境界の問題より魔境の数が問題でございます。陛下と米沢伯爵殿が御聞きになったのは飯豊魔境の話だと思いますが、その後の調査で朝日魔境も発見されております。」
「なに! それは真か? 1日で狩りが可能な魔境が2か所も発見できたのか?」
俺の言葉に御用部屋にいた大臣・大臣添役・重臣達がざわめいた。当然だろう、これで王家・王国の収入源がまた増えると同時に、家臣子弟の働き口が確保出来るのだ。
「はい、しかも2か所とも米沢伯爵家に近こうございます。領地替えの場所を誤りますと、折角の替地提案が米沢伯爵家に不利と成ってしまいます。王家・王国の意向に沿って、素早く領地替えを願い出られた米沢伯爵家に不利にならないようの、領地替えは慎重に行わなければならないかと考えます。」
「陛下、これは大和殿の申される通りかと考えます。特に米沢伯爵殿は、後継問題で領地を半分失っております。ここは慎重に検地せねばならないと考えますが?」
「それはならん! 東北諸侯の領民は天災や冷害により餓えておる、ここは1日でも早く囮場・狩場の設置をせねばならん、先ずは設置せよ! そして検地によって誤りが分かれば再度替地を行えばよい。1村を王国・米沢伯爵家・大和子爵家で分ける事に成っても構わん、兎に角早く設置せよ!」
(それ程追い込まれているのか、1日遅れればそれだけで餓える者がいるのだな。)
(可哀想でございますね、1日の遅れで飢え死にする者が出れば取り返しがつきません、死なぬまでも幼子(おさなご)が餓える姿など見たくありません。)
(そうだね、ここは後押ししよう。)
「陛下の民を思う御心に触れ、臣も力の限り働く所存でございます。領地の確定など後々の事で大丈夫でございます、今直ぐにでも囮の出来る家臣を選抜するよう、屋敷に使者を送ってくださりませ。」
「うむ、よくぞ申した! 米沢伯爵家には領内に残る家臣に狩りの準備を命じる使者を出す。だがそれには多少の時間が必要であろう、この間に尊と彩の処遇を話し合いたい。」
「我ら2人の処遇とは、いかなる事でございましょうか?」
(何か思いつく?)
(いえ何も思いつきません、改まっていったい何を話し合うのでしょうか?)
「尊と彩の名乗りであるが、大和とは士族願いの時のものじゃ、唐津城の受け渡しも済んだことである、ここは正式に唐津子爵として唐津尊と名乗るがよかろう。」
「有り難き幸せにございます、これからも唐津尊の名に恥じにように、王家・王国の為に働く所存でございます。」
「うむ、大儀である。」
(なんだよ、そういうことかよ、びっくりするじゃないかよ。)
(そうですね、でも好かったではありませんか。唐津尊・子爵様、これからも幾久しく御側に置いてくださいませ。)
(こちらこそ! これからもずっとそばにいて欲しい!)
(はい!)
「次に彩の事である、これまでの余・王家・王国に対する忠義と功労は皆の知る所であろう。米沢伯爵家から替地と成る所に築城を認め、男爵に陞爵する。ただ東北の領民に仕事を与える為にも、賦役では無く賃金を与えて築城するように。」
「有り難き幸せにございます。陛下の仰せのように、民の為に賃金を与えて築城させて頂きます。」
(陛下も狸だね、俺達に大金を使わす気だ。)
(そうですね、城造りとなれば大金が動いて景気も好くなるのですよね?)
(そうだよ、王都をはじめとする関東は好景気だし、長崎を中心とする九州も少しづつ景気が好くなっているけど、東北は未だに困窮しているからね。)
(でも米沢ではまだまだ南で、本当に困っているのはもっと北では無いのですか?)
(そうだね、でも陛下の事だからまた何か仕掛けてくるよ。)
(そうかもしれませんね、でもそれが民の為に成るなら御受けになるのでしょ?)
(そうだね、彩に愛して貰えるように、好い人間で居続けるよ。)
(まあ、殿様ったら!)
「陛下の仰せごもっともでございます。ただ念の為に集まった者共の考えも述べさせましょう。皆は何と思うか?」
「商務大臣として申させて頂きますと、賃金を与えて築城して頂けますと、物とお金の流れが活発になり、王国にとって好き事でございます。」
「軍務大臣として申させて頂きますと、彩殿が準男爵から男爵に陞爵されると、非常時の指揮権に幅を広げる事が出来ます。突出した戦闘力を持つ彩殿ですが、準男爵ですと男爵以上を指揮する場合に問題が出かねません、出来る事なら今後も陞爵され子爵位以上を得られることを望みます。」
間部筆頭大臣の問いかけに次々と色々な意見が出たが、松平信庸(まつだいらのぶつね)・軍務大臣がとんでもない事を言いだした。王家の方針として、王国の大臣として権を持つのは少領の譜代貴族家と限られている、これを変更するような重大な事なのだ。
「それは心配いらん、王家・王国の重臣として役目として指揮権を与える。爵位を持って逆らう貴族家がいれば取り潰すから心配するでない。」
陛下の御言葉で事は治まったが、松平軍務大臣の動向は注意した方がいいかもしれない。
「それと唐津殿、昨日の調査で行った狩りで、属性魔竜ボスの爪と鱗を手に入れたと聞くが?」
「はい、その通りでございますが?」
「それは何時王家・王国に献上してくれるのかな?」
(しまった! 調子に乗り過ぎていたよ、家臣や案内役の前でボスの身体を手に入れるところを見せてしまった!)
(本当ですね殿様、私もうっかりしていました。)
「昨日狩ったばかりでうっかりしておりましたが、今献上させて頂きます。」
勿体無いのだがここは仕方が無い。俺が言いだした王家・王国への獲物の2割献上だ、渋々阿武隈・飯豊・朝日のボスの爪を各3本と、爪が2割以上の割合だったので、その分減らして鱗は1割5分を魔法袋から出して差し出した。
『うぉ~~』
御用部屋にいた、陛下をはじめとする王家・王国の重鎮たちも思わず感嘆の声をあげた。それはそうだろう、魔境のボスであり長らく人を寄せ付けなかった、属性魔竜の爪と鱗が献上されたのだ。いったいどれくらいの金銭的価値があるのか見当もつかないし、魔道具の素材として活用すれば、どれほど強力な魔道具を創り出せるのか期待が絶大なのだ。
「う~む、難しい決断じゃな、唐津子爵には魔境の調査をさせたい思いも有れば、この属性魔竜の爪と鱗を研究させたい思いもある。間部は如何に思うか?」
「陛下、先ずは最初に決めたように魔境の調査をして頂きましょう。その折々に各地の属性魔竜ボスの素材集めもして頂き、東北・蝦夷の調査が全て終わってから、じっくりと腰を据えて研究して頂きましょう。それまでは王国魔導師団の面々に、各種魔竜を使った予備研究を引き続きして貰えば好いと考えます。」
「うむそれが好いな、そうさせよう。」
「あれは何と言う山だ?」
「あれは大朝日岳・寒江山・龍門山などからなる朝日山地ともうします。」
「ここも確認する、さっきのように魔境と奥山の境界の周囲を回る、皆は奥に控えておれ!」
『は!』
「彩、後は任せたよ。」
「御任せ下さい。」
間食の後で再度魔境の調査に飛んだが、幾人もの人の入れ替えがあった。どうやら王都の屋敷にさっきの調査報告に戻ったのだろう、飯豊魔境の周囲に領地を持つ貴族家には重大問題だから、一刻も早く報告に戻るのは家臣として当然だろう。同時にさっきの調査に間に合わなかった、新手の貴族家の案内役が参加していた。
飯豊魔境まではさっきの行程をなぞり、そこからさらに北上してみたが、直ぐに新たな魔境を発見したのだ。俺の問いに山形子爵家から案内に来ていた家臣が山々の説明をしてくれたが、やはり何時もの様に直接探査する必要がある。
飯豊魔境の時と同じように、俺が狩りをしてボスを誘い出し、ボスを嬲りものにして爪と鱗を素材として確保する。ボスが逃げ去った後で彩が素材・軍資金集めの狩りをする決まった手順で調査を終了した。
ここで悲喜こもごもの案内役が出てくる。村上子爵家・山形子爵家は、新たに狩りが可能と分かった朝日魔境と領地を接していた。だが上山男爵家は残念ながら近隣では有るものの、領地が接していなかった。そして幸いだったのが米沢伯爵家だった、飯豊魔境に続いて朝日魔境にも領地を接していたのだ、1人は屋敷に帰ったようだが残った家臣の喜びようは、見ている此方が驚くほどだった。
『王都・大和家上屋敷』
「殿様、本当に我が家で競売をさせるのですか?」
「そうだよ、なにも赤の他人に大切な汎用魔法袋を貸し出す事も無いし、競売手数料も取られたくはない、家臣の家族達の仕事を確保しないとね。」
「でも少しづつですよね?」
「もちろんだよ、行き成り既存の冒険者組合に全面戦争を仕掛ける心算は無いよ、購買層が多くて家臣家族がいる王都から始めて、異国の商人が確実に参加する長崎を2番目にするよ。」
「そして徐々に増やして行かれるのですね?」
「多摩は昔からの付き合いがあるからね、世話になった組合長の顔を立てるから無理だけど、甲府や諏訪は輸送するか直接現場で競売するか判断に苦しむね。」
「そうですね、襲ってくるような愚か者はいないと思いますが、輸送に当たる者は相当の手練れを配置しなければなりませんね。」
「そうなんだよね、色々人手が必要に成るけど、それが王国の人材活用になって経済もよくなるからね。」
今日の仕事が一息ついた俺と彩は、大型草食魔竜の芯タンステーキをメインディシュに、ゆっくりと夕食を楽しみながら今後の方針を話し合っていた。先に魔力と心身の鍛錬・魔力回復用の大食は済ませている、今の食事は大切なストレス対策だ。
魔樹の実を搾ったジュース・デザート用の魔樹の実・魔竜のミノの下ろしポン酢・魔竜の腿肉の叩き・魔竜すね肉と魔草根のシチュー・魔草のサラダを愉しんだ。魔竜の種によって味わいが違うので、毎日毎食魔竜の食事でも飽きる事は無い。
『王都・王城・御用部屋』
翌日早朝から魔境の調査に行く予定だったのだが、夕食後に来た陛下の使者による、翌日早朝の登城命令で御破算になった。仕方なく東北諸貴族家の案内役に魔境調査中止の使者を出す羽目になったが、王国の命令とあれば仕方が無かった。
「魔境の調査で忙しい中、急に呼びだして済まなかったな。」
「いえ、陛下の御下命と有れば何を差し置いても馳せ参じまする。」
「うむ、大儀である。」
(嘘だよ~ん。陛下は彩の次で2番目だよ~ん。)
(まぁ、嬉しいですが不謹慎ですよ、殿様。)
(好いの好いの、彩にしか伝わらない念話だし、何を差し置いても魔境調査をしろと言った翌日に、魔境調査を中止して登城せよと言ったりするんだから、少しくらい陰口言わないと反感が残るからね。)
(それもそうですね、少しいい加減すぎますね。)
「今回は米沢伯爵から急な願いと献策があってな、魔境調査を優先せよと言った翌日にも拘らず、中止して登城せよと言う朝令暮改に成ってしまった。しかしこの提案は急ぎ実行する必要があり、今日は皆に集まって貰った。」
(念話が伝わったのかね?)
(表情を読まれたのでしたら、今後は注意しなければなりませんね。)
俺と彩は念話で軽口を叩きながら陛下の話を聞いていたが、内心は訝しい思いがあった。それ程の重大な要件・事件が起こったとでも言うのだろうか?
「米沢伯爵からの願いは、領地の内1万石づつ計2万石を王国領・大和子爵領と交換し、早期に奴隷千人砦と囮場・狩場を設置して欲しいと言うものだ。」
(凄いね、昨日昼に報告を受けて即王家・王国に領地の返還を願い出たのだな、即断即決とは武人の鏡だね。)
(左様でございますね、でもそれだけ米沢伯爵家が追い詰められていたと言う事でもありませんか?)
(確かにそうだね、米沢伯爵家の経済的困窮は噂以上なのかも知れないね。)
「そこで余はその願いを聞き届け、今日にでも狩場を設置したいと思っている、何か意見の有る者はいるか?」
(陛下の希望に意見したくはないが、昨日の報告だけはしとかないといけないな。)
(左様ですね、それで領地替えの地が変更になりますものね。)
「陛下、意見ではございませんが、昨日の魔境調査の報告をさせて頂きたいのです。それによって替地の場所が変わってくると思われます。」
「ふむ、それはそうであるな。余や米沢が聞いたのは尊と彩を案内した家臣の話だ、直接調査した2人の説明を聞かねば境界を決める事は出来ぬな。」
「その通りなのではございますが、今回は境界の問題より魔境の数が問題でございます。陛下と米沢伯爵殿が御聞きになったのは飯豊魔境の話だと思いますが、その後の調査で朝日魔境も発見されております。」
「なに! それは真か? 1日で狩りが可能な魔境が2か所も発見できたのか?」
俺の言葉に御用部屋にいた大臣・大臣添役・重臣達がざわめいた。当然だろう、これで王家・王国の収入源がまた増えると同時に、家臣子弟の働き口が確保出来るのだ。
「はい、しかも2か所とも米沢伯爵家に近こうございます。領地替えの場所を誤りますと、折角の替地提案が米沢伯爵家に不利と成ってしまいます。王家・王国の意向に沿って、素早く領地替えを願い出られた米沢伯爵家に不利にならないようの、領地替えは慎重に行わなければならないかと考えます。」
「陛下、これは大和殿の申される通りかと考えます。特に米沢伯爵殿は、後継問題で領地を半分失っております。ここは慎重に検地せねばならないと考えますが?」
「それはならん! 東北諸侯の領民は天災や冷害により餓えておる、ここは1日でも早く囮場・狩場の設置をせねばならん、先ずは設置せよ! そして検地によって誤りが分かれば再度替地を行えばよい。1村を王国・米沢伯爵家・大和子爵家で分ける事に成っても構わん、兎に角早く設置せよ!」
(それ程追い込まれているのか、1日遅れればそれだけで餓える者がいるのだな。)
(可哀想でございますね、1日の遅れで飢え死にする者が出れば取り返しがつきません、死なぬまでも幼子(おさなご)が餓える姿など見たくありません。)
(そうだね、ここは後押ししよう。)
「陛下の民を思う御心に触れ、臣も力の限り働く所存でございます。領地の確定など後々の事で大丈夫でございます、今直ぐにでも囮の出来る家臣を選抜するよう、屋敷に使者を送ってくださりませ。」
「うむ、よくぞ申した! 米沢伯爵家には領内に残る家臣に狩りの準備を命じる使者を出す。だがそれには多少の時間が必要であろう、この間に尊と彩の処遇を話し合いたい。」
「我ら2人の処遇とは、いかなる事でございましょうか?」
(何か思いつく?)
(いえ何も思いつきません、改まっていったい何を話し合うのでしょうか?)
「尊と彩の名乗りであるが、大和とは士族願いの時のものじゃ、唐津城の受け渡しも済んだことである、ここは正式に唐津子爵として唐津尊と名乗るがよかろう。」
「有り難き幸せにございます、これからも唐津尊の名に恥じにように、王家・王国の為に働く所存でございます。」
「うむ、大儀である。」
(なんだよ、そういうことかよ、びっくりするじゃないかよ。)
(そうですね、でも好かったではありませんか。唐津尊・子爵様、これからも幾久しく御側に置いてくださいませ。)
(こちらこそ! これからもずっとそばにいて欲しい!)
(はい!)
「次に彩の事である、これまでの余・王家・王国に対する忠義と功労は皆の知る所であろう。米沢伯爵家から替地と成る所に築城を認め、男爵に陞爵する。ただ東北の領民に仕事を与える為にも、賦役では無く賃金を与えて築城するように。」
「有り難き幸せにございます。陛下の仰せのように、民の為に賃金を与えて築城させて頂きます。」
(陛下も狸だね、俺達に大金を使わす気だ。)
(そうですね、城造りとなれば大金が動いて景気も好くなるのですよね?)
(そうだよ、王都をはじめとする関東は好景気だし、長崎を中心とする九州も少しづつ景気が好くなっているけど、東北は未だに困窮しているからね。)
(でも米沢ではまだまだ南で、本当に困っているのはもっと北では無いのですか?)
(そうだね、でも陛下の事だからまた何か仕掛けてくるよ。)
(そうかもしれませんね、でもそれが民の為に成るなら御受けになるのでしょ?)
(そうだね、彩に愛して貰えるように、好い人間で居続けるよ。)
(まあ、殿様ったら!)
「陛下の仰せごもっともでございます。ただ念の為に集まった者共の考えも述べさせましょう。皆は何と思うか?」
「商務大臣として申させて頂きますと、賃金を与えて築城して頂けますと、物とお金の流れが活発になり、王国にとって好き事でございます。」
「軍務大臣として申させて頂きますと、彩殿が準男爵から男爵に陞爵されると、非常時の指揮権に幅を広げる事が出来ます。突出した戦闘力を持つ彩殿ですが、準男爵ですと男爵以上を指揮する場合に問題が出かねません、出来る事なら今後も陞爵され子爵位以上を得られることを望みます。」
間部筆頭大臣の問いかけに次々と色々な意見が出たが、松平信庸(まつだいらのぶつね)・軍務大臣がとんでもない事を言いだした。王家の方針として、王国の大臣として権を持つのは少領の譜代貴族家と限られている、これを変更するような重大な事なのだ。
「それは心配いらん、王家・王国の重臣として役目として指揮権を与える。爵位を持って逆らう貴族家がいれば取り潰すから心配するでない。」
陛下の御言葉で事は治まったが、松平軍務大臣の動向は注意した方がいいかもしれない。
「それと唐津殿、昨日の調査で行った狩りで、属性魔竜ボスの爪と鱗を手に入れたと聞くが?」
「はい、その通りでございますが?」
「それは何時王家・王国に献上してくれるのかな?」
(しまった! 調子に乗り過ぎていたよ、家臣や案内役の前でボスの身体を手に入れるところを見せてしまった!)
(本当ですね殿様、私もうっかりしていました。)
「昨日狩ったばかりでうっかりしておりましたが、今献上させて頂きます。」
勿体無いのだがここは仕方が無い。俺が言いだした王家・王国への獲物の2割献上だ、渋々阿武隈・飯豊・朝日のボスの爪を各3本と、爪が2割以上の割合だったので、その分減らして鱗は1割5分を魔法袋から出して差し出した。
『うぉ~~』
御用部屋にいた、陛下をはじめとする王家・王国の重鎮たちも思わず感嘆の声をあげた。それはそうだろう、魔境のボスであり長らく人を寄せ付けなかった、属性魔竜の爪と鱗が献上されたのだ。いったいどれくらいの金銭的価値があるのか見当もつかないし、魔道具の素材として活用すれば、どれほど強力な魔道具を創り出せるのか期待が絶大なのだ。
「う~む、難しい決断じゃな、唐津子爵には魔境の調査をさせたい思いも有れば、この属性魔竜の爪と鱗を研究させたい思いもある。間部は如何に思うか?」
「陛下、先ずは最初に決めたように魔境の調査をして頂きましょう。その折々に各地の属性魔竜ボスの素材集めもして頂き、東北・蝦夷の調査が全て終わってから、じっくりと腰を据えて研究して頂きましょう。それまでは王国魔導師団の面々に、各種魔竜を使った予備研究を引き続きして貰えば好いと考えます。」
「うむそれが好いな、そうさせよう。」
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