奴隷魔法使い
第233話魔境探し・飯豊魔境
『東北』
俺と彩が昼食と鍛錬を終えて、再度巡視に行こうと護衛家臣と仙台家案内役を、奥女中に呼び集めさそうとすると、東北諸侯の家臣団が集まっていると報告があった。時間が惜しかったので、いちいち謁見するのを止め、全員を500人級盥空船の前に集めて1度に済ます事にした。
「皆よく集まってくれた、今から午後の巡視を行う。」
今回は東北でも出羽側の魔境を調査する心算だが、事前の報告では出羽魔境と言う、古代魔龍の住む広大な魔境があり、狩場に出来るような所は無いと言うものだった。しかし簡単に諦める訳にはいかない、阿武隈魔境には接していない東北諸侯も多いのだ。
「あれに見えるのが奥羽魔境の吾妻山でございます。」
会津公爵家の案内役の者が教えてくれた。彼には奥羽魔境が狩場に出来ればと言う思いがあるのだろう、縋るような目で此方を見ているが、残念ながら明らかに古代魔龍の気配がする。余りの強大な魔力量の首筋がチリチリする。
(殿様、尋常でない魔力を感じます。)
(そうだね、ここは魔境内に入るのも細心の注意がいるね、出来れば人里を迂回した方が好いね。)
(では私から指示いたします。)
(ああ頼むよ。)
「この山には尋常でない気配と魔力を感じます。縄張りに入れば古代魔龍を刺激してしまい、周辺に甚大な被害が出ますから、ここは迂回します。」
会津公爵家の案内役は明らかに落胆した様子だったが、こればかりは致し方ない。俺も彩も古代魔龍に喧嘩を売って死ぬ気は毛頭ない、このまま順当に魔力量が増えれば何時かは勝てる日が来るのに、焦って犬死するほど愚か者では無いのだ。
「だが吾妻山と次の山の間に人里が形成されている。これは奥羽魔境とは言っても、1頭の古代魔龍が支配している訳では無いと言う事だ。中には属性魔竜の支配する魔境も有るかもしれない、丹念に調査したい。皆知る事を包み隠さず申し出よ。」
俺の言葉に落胆していた多くの案内役が、面(おもて)を上げて縋(すが)るような表情で此方を見つめて来た。そんな捨て犬みたいな目で見るんじゃない、冷たくあしらえなくなるじゃないか。
(殿様、左手の山々は吾妻山と独立しているのではありませんか?)
(うん、彩の言う通りだね、あの山には古代魔龍のような強大な魔力を感じないね)
「あの左先の山を知っている者はいますか?」
「はい! あれは飯豊山・大日岳・北股岳・飯森山などからなる山々です。」
彩の問いに、先程の会津公爵家の案内役が期待に満ちた目で答える。
「魔境と奥山の境界を確認しながら周囲を回る、皆は奥に控えておれ!」
俺の言葉を受けて、護衛と仙台家の案内役が新人を空船の中央に集めている。それを横目に空に飛びだし、魔境と空船の間に位置取りをした。何時も通り空船はボスのブレスが届かない安全圏、俺は境界から少し魔境に入った所を飛ぶ。
(殿様、ここのボスは用心深いのでしょうか?)
(そうかもしれないね、でも俺みたいに怠け者なのかも知れないよ。)
(殿様が怠け者など、冗談にもなりません。)
(本当は怠け者なのだよ、俺と彩が安全に暮らせるようになったら分かるよ。)
(そうなのですか? 信じられませんが、そのような安全な日が来ることを楽しみに待っています。その時は日がな一日膝枕をして差し上げます。)
(その日が来るのを楽しみにしているよ。)
俺と彩が念話で話している間に、この魔境を1周する事が出来た。有り難い事に、予測通り吾妻山の魔境とは接していない。横に広がりは無いが、2つの魔境に間に道と小さな集落も有る、ここで囮や狩りをすると古代魔龍を刺激するかもしれないから、反対側からだけにすべきだな。
(狩りをしてボスを誘い出してみる。)
(分かりました。)
「皆の者、殿様がボスを誘い出す為に狩りをします、今まで以上に注意していなさい。」
彩に空船への警告を出させた上で囮狩りを始めた。予測通り八講魔境ほどは小さくは無いが、阿武隈魔境にはとても及ばない。一方生息している魔獣・魔竜は高地生息種のものが多く、比較的小型でも強靭な種が多い。これだと狩るのは難しいが、魔道具の材料としても高価なので、kg当たりの単価が高くなるだろう。
結構な数の魔竜を狩ってやっとボスを誘い出す事が出来たが、こちらも想像通り阿武隈よりも小さく八講よりも大きい。こいつもブレスを吐き尽し逃げようとするところを、12本の爪を切り落とし、1割の鱗を削ぎ落し、その時に出た血を集めて魔道具の材料を確保した。
「凄い! 凄すぎる! ボスを嬲りものにしておられる。何時でもボスを倒す事が出来ると言う事か?」
「左様! 我が殿はボスを倒すのではなく、飼う御心算なのだ!」
「飼う? ボスを飼う?!」
(彩、そろそろボスを逃がしてやる心算だから、あと適当に狩って間食鍛錬にしよう。)
(はい、そうですね、魔獣・魔竜を競売に掛けずに直売する計画も有りますし、出来るだけ狩った方が好いですね。)
俺達の家臣や案内役の陪臣の会話を横目に、俺と彩は念話で打ち合わせをした。俺達が仕入れた輸入商品を、王都家臣家族の福利厚生の為に、家族に直売店を出させて委託販売させ始めたが、どうせなら魔獣・魔竜の素材や魔道具を、競売を通さずに委託販売させる計画をしいている。そうすれば直臣でもない冒険者組合に汎用魔法袋を貸与する必要も無くなる。
「私も狩りをしてきます、殿様が戻られますから粗相の無いようになさい。」
彩の実力も家臣・案内役に見せつける為の狩りを始めた。半死半生のボスは逃がしてやり、素材として高値のつきそうな魔竜から順に狩っていく。例え我が大和家の魔法使い冒険者士族が派遣され狩りをする事になっても、狩れないような強靭な魔竜を選んで狩っていく。
「魔法袋が一杯になった、一旦王都に帰還する。」
王都に戻った俺と彩は決まった手順になった、王都冒険者組合への素材の競売委託と汎用魔法袋の貸与、大量の食事と魔力心身の鍛錬、汎用魔法袋の創作を行った。
この間に家臣・案内役に間食を支給したのだが、会津公爵家・米沢伯爵家・新発田子爵家・黒川準男爵家・三日市準男爵家の案内役は食事もせずに、王都の屋敷に急ぎ駆け戻り、狩りが可能な魔境が領地に接している事を報告した。
『王都・米沢伯爵家上屋敷』
「殿! 御喜びください、我が領地に接する狩りが可能な魔境がございました!」
「なに! それは真か右近!」
「はいこの目でしかと確認してまいりました、大和子爵閣下・大和準男爵閣下におかれましては、魔境のボスを嬲りものにして追い払われておられました!」
「うむ? ボスを嬲りものにして追い払う位なら、狩ってしまう事が出来たのではないのか?」
「それが殿! 事も有ろうにボスは狩らずに飼うものと仰せになられました!」
「なるほど、ボスは狩らずに魔境を維持して、安定的な財源になされると言う事だな?」
「左様仰せでございました。」
「安長、王城に参って領地替えを願いでる、そちは大和次席大臣閣下の下に参って、領地替えを願い出よ、1日でも早く狩場を設置して頂かねば、我が家は潰れてしまう。」
米沢吉憲(よねざわよしのり) 米沢家5代当主・15万石
須田右近 米沢伯爵家・王都財務方
色部安長(いろべやすなが) 米沢伯爵家・王都家老
米沢伯爵家は存立の危機に瀕していた。戦国期には王家に対抗する120万石の勢力を誇り、一時は王家に決戦を挑む程の意気があったが、武運拙く敗北し30万石に領地を削られる事に成った。しかも先代陛下の治世時に継承問題が起こり、罰として更に領地を削られ、15万石にまで領地が減ってしまっていた。
米沢伯爵家は度重なる領地の削減にもかかわらず家臣を召し放つことをせず、主従必死で家を守ってきたものの、そのツケは領民及んでしまい、あまりに重い税を課した為に領民の殆どは逃げ去り、微禄の家臣や陪臣が農作業を兼業する事で糊口を凌いでいた。
しかしながら主従一同必死の倹約と殖産も限界で、王都への出仕交代すら家臣から借財しなければ行えない状態だった。殆どの家臣が士族・卒族と言うより平民と同じ仕事で糊口を凌ぐ現実では、領地を返上して軍役を無くす方が生活が楽になるのだ。
『王都・王城・密談室・国王陛下・間部筆頭大臣・米沢伯爵』
「左様か、吉憲や家臣には苦労をさせたな。」
「滅相もございません、全ては我が家の運でございます。」
「陛下、ここは即日勅命にて領地替えを御認めになられてはどうでしょうか?」
「問題は起こらぬか?」
「通常の手続きでも、領地替えを行う王国・米沢家・大和家が納得し、王国の評定でも不正無しと審議が行われれば問題ございません。まして貴族家・士族家の領地替えは王国の専決事項でございます、陛下の勅命であれば何の問題もございません。」
「うむ、あい分かった。大和であれば異論など挟むまいが、一応内々に話は通さねばならん、明日大和を呼びだし早々に領地替えを行おう。」
「陛下の御厚情に対し奉り、感謝の言葉もございません! 更なる請願は強欲に過ぎる事、重々承知しておりますが、重ねての請願御願い申し奉ります。」
「なんじゃ? 申してみよ。」
陛下にとっては訝しい事だった。米沢伯爵家15万石の内、飯豊山地魔境に接する所を3等分し、王家と大和家にそれぞれ1万石を献上し、その代わり褒美として替地2万石を王国直轄領から賜る事で、米沢伯爵家は救われるはずなのだ、これ以上の請願は王家・王国の心証を悪くし、むしろ米沢伯爵家の為にはならないのだ。
「大和家が入られる飯豊に築城を許可して頂きたいのです、それが可能となれば狩りに参加できないような老弱な者も、糊口を凌ぐ日雇い仕事を得る事が可能となります。」
「なるほど、陛下、この米沢殿の願いはお聞届けになってよいと思われます。この事は大和殿の為にもなり、とても名案でございます。」
「どう言う事だ?」
「大和殿は未だに士族願いを出した時の苗字のままでございます。早々に貴族に相応しい名跡に変更して頂く必要がございます。尊殿は唐津城の受け取りが終わりましたので、唐津尊と名乗りを変えて頂くとして、彩殿に男爵位を授けるには城が必要となります。」
「なるほど、彩に飯豊1万石の城主として男爵位を授けるのだな。」
「王国・米沢家・唐津家・飯豊家・家臣領民全てに利がある名案でございます。」
「吉憲、そちの献策を認める、唐津子爵が王都に戻り次第ともに話そうでは無いか。」
「我が強欲な願いを御聞き届け頂き感謝の言葉もございません。」
俺と彩が昼食と鍛錬を終えて、再度巡視に行こうと護衛家臣と仙台家案内役を、奥女中に呼び集めさそうとすると、東北諸侯の家臣団が集まっていると報告があった。時間が惜しかったので、いちいち謁見するのを止め、全員を500人級盥空船の前に集めて1度に済ます事にした。
「皆よく集まってくれた、今から午後の巡視を行う。」
今回は東北でも出羽側の魔境を調査する心算だが、事前の報告では出羽魔境と言う、古代魔龍の住む広大な魔境があり、狩場に出来るような所は無いと言うものだった。しかし簡単に諦める訳にはいかない、阿武隈魔境には接していない東北諸侯も多いのだ。
「あれに見えるのが奥羽魔境の吾妻山でございます。」
会津公爵家の案内役の者が教えてくれた。彼には奥羽魔境が狩場に出来ればと言う思いがあるのだろう、縋るような目で此方を見ているが、残念ながら明らかに古代魔龍の気配がする。余りの強大な魔力量の首筋がチリチリする。
(殿様、尋常でない魔力を感じます。)
(そうだね、ここは魔境内に入るのも細心の注意がいるね、出来れば人里を迂回した方が好いね。)
(では私から指示いたします。)
(ああ頼むよ。)
「この山には尋常でない気配と魔力を感じます。縄張りに入れば古代魔龍を刺激してしまい、周辺に甚大な被害が出ますから、ここは迂回します。」
会津公爵家の案内役は明らかに落胆した様子だったが、こればかりは致し方ない。俺も彩も古代魔龍に喧嘩を売って死ぬ気は毛頭ない、このまま順当に魔力量が増えれば何時かは勝てる日が来るのに、焦って犬死するほど愚か者では無いのだ。
「だが吾妻山と次の山の間に人里が形成されている。これは奥羽魔境とは言っても、1頭の古代魔龍が支配している訳では無いと言う事だ。中には属性魔竜の支配する魔境も有るかもしれない、丹念に調査したい。皆知る事を包み隠さず申し出よ。」
俺の言葉に落胆していた多くの案内役が、面(おもて)を上げて縋(すが)るような表情で此方を見つめて来た。そんな捨て犬みたいな目で見るんじゃない、冷たくあしらえなくなるじゃないか。
(殿様、左手の山々は吾妻山と独立しているのではありませんか?)
(うん、彩の言う通りだね、あの山には古代魔龍のような強大な魔力を感じないね)
「あの左先の山を知っている者はいますか?」
「はい! あれは飯豊山・大日岳・北股岳・飯森山などからなる山々です。」
彩の問いに、先程の会津公爵家の案内役が期待に満ちた目で答える。
「魔境と奥山の境界を確認しながら周囲を回る、皆は奥に控えておれ!」
俺の言葉を受けて、護衛と仙台家の案内役が新人を空船の中央に集めている。それを横目に空に飛びだし、魔境と空船の間に位置取りをした。何時も通り空船はボスのブレスが届かない安全圏、俺は境界から少し魔境に入った所を飛ぶ。
(殿様、ここのボスは用心深いのでしょうか?)
(そうかもしれないね、でも俺みたいに怠け者なのかも知れないよ。)
(殿様が怠け者など、冗談にもなりません。)
(本当は怠け者なのだよ、俺と彩が安全に暮らせるようになったら分かるよ。)
(そうなのですか? 信じられませんが、そのような安全な日が来ることを楽しみに待っています。その時は日がな一日膝枕をして差し上げます。)
(その日が来るのを楽しみにしているよ。)
俺と彩が念話で話している間に、この魔境を1周する事が出来た。有り難い事に、予測通り吾妻山の魔境とは接していない。横に広がりは無いが、2つの魔境に間に道と小さな集落も有る、ここで囮や狩りをすると古代魔龍を刺激するかもしれないから、反対側からだけにすべきだな。
(狩りをしてボスを誘い出してみる。)
(分かりました。)
「皆の者、殿様がボスを誘い出す為に狩りをします、今まで以上に注意していなさい。」
彩に空船への警告を出させた上で囮狩りを始めた。予測通り八講魔境ほどは小さくは無いが、阿武隈魔境にはとても及ばない。一方生息している魔獣・魔竜は高地生息種のものが多く、比較的小型でも強靭な種が多い。これだと狩るのは難しいが、魔道具の材料としても高価なので、kg当たりの単価が高くなるだろう。
結構な数の魔竜を狩ってやっとボスを誘い出す事が出来たが、こちらも想像通り阿武隈よりも小さく八講よりも大きい。こいつもブレスを吐き尽し逃げようとするところを、12本の爪を切り落とし、1割の鱗を削ぎ落し、その時に出た血を集めて魔道具の材料を確保した。
「凄い! 凄すぎる! ボスを嬲りものにしておられる。何時でもボスを倒す事が出来ると言う事か?」
「左様! 我が殿はボスを倒すのではなく、飼う御心算なのだ!」
「飼う? ボスを飼う?!」
(彩、そろそろボスを逃がしてやる心算だから、あと適当に狩って間食鍛錬にしよう。)
(はい、そうですね、魔獣・魔竜を競売に掛けずに直売する計画も有りますし、出来るだけ狩った方が好いですね。)
俺達の家臣や案内役の陪臣の会話を横目に、俺と彩は念話で打ち合わせをした。俺達が仕入れた輸入商品を、王都家臣家族の福利厚生の為に、家族に直売店を出させて委託販売させ始めたが、どうせなら魔獣・魔竜の素材や魔道具を、競売を通さずに委託販売させる計画をしいている。そうすれば直臣でもない冒険者組合に汎用魔法袋を貸与する必要も無くなる。
「私も狩りをしてきます、殿様が戻られますから粗相の無いようになさい。」
彩の実力も家臣・案内役に見せつける為の狩りを始めた。半死半生のボスは逃がしてやり、素材として高値のつきそうな魔竜から順に狩っていく。例え我が大和家の魔法使い冒険者士族が派遣され狩りをする事になっても、狩れないような強靭な魔竜を選んで狩っていく。
「魔法袋が一杯になった、一旦王都に帰還する。」
王都に戻った俺と彩は決まった手順になった、王都冒険者組合への素材の競売委託と汎用魔法袋の貸与、大量の食事と魔力心身の鍛錬、汎用魔法袋の創作を行った。
この間に家臣・案内役に間食を支給したのだが、会津公爵家・米沢伯爵家・新発田子爵家・黒川準男爵家・三日市準男爵家の案内役は食事もせずに、王都の屋敷に急ぎ駆け戻り、狩りが可能な魔境が領地に接している事を報告した。
『王都・米沢伯爵家上屋敷』
「殿! 御喜びください、我が領地に接する狩りが可能な魔境がございました!」
「なに! それは真か右近!」
「はいこの目でしかと確認してまいりました、大和子爵閣下・大和準男爵閣下におかれましては、魔境のボスを嬲りものにして追い払われておられました!」
「うむ? ボスを嬲りものにして追い払う位なら、狩ってしまう事が出来たのではないのか?」
「それが殿! 事も有ろうにボスは狩らずに飼うものと仰せになられました!」
「なるほど、ボスは狩らずに魔境を維持して、安定的な財源になされると言う事だな?」
「左様仰せでございました。」
「安長、王城に参って領地替えを願いでる、そちは大和次席大臣閣下の下に参って、領地替えを願い出よ、1日でも早く狩場を設置して頂かねば、我が家は潰れてしまう。」
米沢吉憲(よねざわよしのり) 米沢家5代当主・15万石
須田右近 米沢伯爵家・王都財務方
色部安長(いろべやすなが) 米沢伯爵家・王都家老
米沢伯爵家は存立の危機に瀕していた。戦国期には王家に対抗する120万石の勢力を誇り、一時は王家に決戦を挑む程の意気があったが、武運拙く敗北し30万石に領地を削られる事に成った。しかも先代陛下の治世時に継承問題が起こり、罰として更に領地を削られ、15万石にまで領地が減ってしまっていた。
米沢伯爵家は度重なる領地の削減にもかかわらず家臣を召し放つことをせず、主従必死で家を守ってきたものの、そのツケは領民及んでしまい、あまりに重い税を課した為に領民の殆どは逃げ去り、微禄の家臣や陪臣が農作業を兼業する事で糊口を凌いでいた。
しかしながら主従一同必死の倹約と殖産も限界で、王都への出仕交代すら家臣から借財しなければ行えない状態だった。殆どの家臣が士族・卒族と言うより平民と同じ仕事で糊口を凌ぐ現実では、領地を返上して軍役を無くす方が生活が楽になるのだ。
『王都・王城・密談室・国王陛下・間部筆頭大臣・米沢伯爵』
「左様か、吉憲や家臣には苦労をさせたな。」
「滅相もございません、全ては我が家の運でございます。」
「陛下、ここは即日勅命にて領地替えを御認めになられてはどうでしょうか?」
「問題は起こらぬか?」
「通常の手続きでも、領地替えを行う王国・米沢家・大和家が納得し、王国の評定でも不正無しと審議が行われれば問題ございません。まして貴族家・士族家の領地替えは王国の専決事項でございます、陛下の勅命であれば何の問題もございません。」
「うむ、あい分かった。大和であれば異論など挟むまいが、一応内々に話は通さねばならん、明日大和を呼びだし早々に領地替えを行おう。」
「陛下の御厚情に対し奉り、感謝の言葉もございません! 更なる請願は強欲に過ぎる事、重々承知しておりますが、重ねての請願御願い申し奉ります。」
「なんじゃ? 申してみよ。」
陛下にとっては訝しい事だった。米沢伯爵家15万石の内、飯豊山地魔境に接する所を3等分し、王家と大和家にそれぞれ1万石を献上し、その代わり褒美として替地2万石を王国直轄領から賜る事で、米沢伯爵家は救われるはずなのだ、これ以上の請願は王家・王国の心証を悪くし、むしろ米沢伯爵家の為にはならないのだ。
「大和家が入られる飯豊に築城を許可して頂きたいのです、それが可能となれば狩りに参加できないような老弱な者も、糊口を凌ぐ日雇い仕事を得る事が可能となります。」
「なるほど、陛下、この米沢殿の願いはお聞届けになってよいと思われます。この事は大和殿の為にもなり、とても名案でございます。」
「どう言う事だ?」
「大和殿は未だに士族願いを出した時の苗字のままでございます。早々に貴族に相応しい名跡に変更して頂く必要がございます。尊殿は唐津城の受け取りが終わりましたので、唐津尊と名乗りを変えて頂くとして、彩殿に男爵位を授けるには城が必要となります。」
「なるほど、彩に飯豊1万石の城主として男爵位を授けるのだな。」
「王国・米沢家・唐津家・飯豊家・家臣領民全てに利がある名案でございます。」
「吉憲、そちの献策を認める、唐津子爵が王都に戻り次第ともに話そうでは無いか。」
「我が強欲な願いを御聞き届け頂き感謝の言葉もございません。」
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