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奴隷魔法使い

克全

第232話東北巡視

『東北』

翌早朝に、500人乗り盥空船に大和家の護衛10人と、仙台辺境伯家の案内役家臣10人を乗せて、東北を巡視する為に飛行移動した。

王都を出て人の生活圏である関東平野を北上し、白河公爵家・二本松伯爵家と魔境を避けるように開発された人里上空を巡っていった。常陸大公家の支援の時に確認した、八講魔境周辺を再確認したのだが、その更に北にある阿武隈魔境には属性魔竜しかいないと判断出来た。

「殿!」

「皆は下がっていなさい!」

彩の叱咤を受けて、家臣と案内役達は盥空船の中央に集まった。阿武隈魔境と奥山の境界線を確認すべく、その周辺を巡っている時にボスが現れたのだ。俺は素早く飛び出して、空船とボスの間に位置取りをして空船を護る態勢を取ったが、彩は空船に残って支援の防御魔法を何時でも展開できるようにした。

阿武隈のボスは八講の数十倍はある巨体で、ブレスの射程も長く破壊力も桁違いだった。

「殿!」

「うろたえるでない! そなた達は護衛の任に専念なさい!」

どうやらボスを初めてみる護衛や案内役は狼狽の極致のようだ。まあ仕方ないだろう、老練な冒険者ですら魔竜を見た事が無い者方が多い、まして今ここにいるのはボスの属性魔竜だ、小便ちびらないだけ度胸があるとも言える。

俺は防御魔法でボスのブレスをいなしつつ境界線を確認した。安全の為に空船の位置取りを確認し、牽制の攻撃魔法を放つ。ボスが牽制に引っかかった隙を突き、同時に5重ねした加速魔法で一気に死角に飛び込み、圧縮強化木属性剣でボスの爪を3本切り落として手に入れる。

(殿様!)

(大丈夫だ彩、俺も強くなっているようだ、その気になれば属性魔竜ボスなら狩れそうだ。)

(はい、でもお気を付けて。)

長崎・朝鮮での役目があったから、各魔境のボスとは真面(まとも)に相対せずにいたが、魔力強化増強の訓練は毎日欠かさなかった。久し振りに真剣に戦うと余裕で相手できるくらい実力差が付いている。もちろん俺の方が遥かに強い。

ボスを魔境の外周全てで引きずり回す心算だったが、流石にボスもブレスが尽きたようで、魔境の奥に逃げようとする。もう少し相手をさせる為、挑発の意味で4本の手足で残っている9本の爪を切り取ってやった。

(殿様、本当に余裕で戦えてますね?)

(ああ、日々の鍛錬を怠らなかった成果だね。)

(私も殿様のようになれるでしょうか?)

(大丈夫だよ、毎日鍛錬を怠らなければ必ず勝てるようになるよ。)

駄目だな、これほど実力差が付くとボスは賢いだけに、勝てないと悟って逃げ出しやがる。ここは素材集めに徹しよう。非情なようだが殺さずに再生できそうな部位を切り取る。角は再生できるかどうか分からないし、もしかしたら魔力の元で切り取ると死んでしまうかもしれない、だから鱗を剥がして手に入れる。

(殿様、何をなさっておられるのですか?)

(これだけ大型の属性魔竜の鱗なら、色々と素材として活用できそうだからね、死なない程度に剥ぎ取ろうと思ってね。)

俺は逃げ出そうとするボスを翻弄しつつ、圧縮強化木属性剣を使ってボスの表面を切り削いで行く。致命傷にならないように、僅かでも出血したらそれも採取して専用の魔法袋に保管する。ボスの鱗の1割程度削ぎ取ってから逃がしてやった。

「殿様! 御見事でございます!」

「子爵閣下! 驚愕いたしました! 魔境のボスが閣下の強さに圧倒され逃げ出しました!」

「閣下ならボスを倒せるのではありませんか?!」

「ああ倒せるぞ、だが倒しては魔獣・魔竜を財産として管理できなくなる。ボスを倒した後で魔境が崩壊し、万が一にも魔獣・魔竜が人里に溢れ出したら大変だからな、ボスは倒さず飼っておくに限るのだ。」

「飼う? 魔境のボスを飼う?!」

「そうだ、これからは魔境を恐れるのではなく、人が生きて行く為の資材を創り出す場として活用し、ボスを飼って管理していくのだ。」

「はっは~~~」

あらら、家の家臣だけじゃなく仙台辺境伯家の家臣まで座礼をしやがる。

「止めなさい! 貴族家に仕える者が無暗に座礼をするものでは有りません。今為すべきはそれぞれの家臣としての本分である護衛と案内です。さあ立つのです!」

彩に怒られてやがる。こいつらには彩の実力も見せつけておいた方がいいな。

「彩、交代しよう、阿武隈魔境の境界線を確認しつつ魔竜を狩ってみてくれ。」

「分かりました。」

空船を飛び出し、次々と大型魔竜を狩る彩を見て家臣と案内役は驚愕している。噂では彩の働きや能力を聞いてはいるのだろうが、華奢で美人の彩を見れば信じられず、地位に敬意を払っても実力を侮る馬鹿もいる。ここはしっかり思い知らせておくに限る。

彩が一通りの魔竜を狩ったので一旦王都に帰還する事にした。狩った獲物を王都で競売に掛ける必要もあったのだが、昨晩創り出した汎用魔法袋を王都冒険者組合に貸与する必要もあった。日々強力に成る俺と彩の魔力に比例して、狩れる魔獣・魔竜の量も増えて行く。それは市場に出回る魔獣・魔竜量が増える事にもなり、組合が保有する魔法袋だけでは保管しきれない事に成る。そこで今までは家臣冒険者だけに貸与していた汎用魔法袋を組合にも貸与する事にしたのだ。

それに1番大切な魔術鍛錬は毎日最低5度は行わなければならない。朝食・昼食・間食・夕食・夜食時に莫大な食料摂取と魔力鍛錬・魔力回復・汎用魔法袋創り・充魔を欠かさない。これに王家・王国の役目と貴族家当主としての仕事、忙しく充実した日々を過ごす事が出来ている。

俺と彩が食事と鍛錬をしている間、家臣達と案内役の仙台家の家臣達も食事をしていたが、他家の家臣をお借りしているので、陪臣では有るが魔獣の素材を使った料理を家臣共々供する事にした。今まで王家の士族やその陪臣の接待に、魔竜料理を振る舞った事はあるが、今回は陪臣ばかりなのでワンランク下の魔獣料理にしたのだ。

「いや~子爵閣下も准男爵閣下も御強いですな!」

「いや~お恥ずかし話なのですが、私達も最近家臣の列に加えて頂いたばかりなので、殿様と奥方様の狩りを拝見するのは初めてなのです。」

「そうなのですか? ですが確か御手前方は仕官武術大会を勝ち抜いた強者ではありませんか? それならば狩りに同行された事があるものだと思っておりました。」

「実はここにいるのは、剣・槍の使い手ばかりで狩りには向かないのですよ。王都の屋敷の警備や殿様・奥方様の警護に採用されたのです。」

「それは名誉な事では有りませんか、実に羨ましことです。」

「ええ! 我ら一同も名誉な事と誇りに思ってはおるのですが、正直な話を致しますと、扶持の面では弓や投げ縄が仕える者達には遥かに及ばないのです。部屋住みや平民となって冒険者にならずに済みましたし、他家に採用されるより遥かに恵まれた条件では有るのですが、腕一本で貴族様以上の収入を稼ぐ冒険者家臣には、収入と言う面では足元にも及びません。」

「そうなのですか、難しい所ですな、名誉の御役目と莫大な収入の何方を選ぶかですか。」

「まあ私は剣一筋の人生に満足しておりますし、家臣の列に加えて頂けた御蔭で、妻を娶る事も出来るようにもなりました。だが子が出来たらまず弓から学ばそうと思っております。」

「ほう弓からですか? それは何故です?」

「弓ならば魔境の外から魔獣・魔竜を倒す事が出来るので、冒険者の隊を編成するのに最初に選ばれるのですよ。」

「なるほどなるほど、私も子供達の弓を学ばせますかな?」

「御節介かもしれませんが、それが好いと思います。弓が出来れば今後も大和家に仕官できるでしょう、次男三男は必須でですよ。それに大和家では女でも実力があれば陪臣士族として仕官できますから。」

「その噂は聞いたことがあります。番方の重臣が女の方でしたな?」

「そうです。我らの大将を務めておられますが、奥方様の信任も厚く、これからも我が大和家で重きをなされるでしょう。」

「まあ女なれば妻となり子を成すのが1番と思いますが、女子しか子が出来ぬ場合は、婿養子に家を牛耳られないように、武芸を学ばせておくのも大切かもしれませんな。」

「仙台辺境伯家では考えられない事では有りますが、貴族家が取り潰される事も有ります。男でも女でも弓が出来れば、冒険者として生きて行けますからな。」

「左様ですな、ところで今思い出したのですが、大和子爵閣下はボスの爪を切り取り鱗を剥ぎ取っておられませんでしたか?」

「ああそうですな、確かにボスを嬲っておられる時に、ボスの身体を切り取っておられましたな。」

「あれはどうなされるのですか?」

「どうとは?」

「属性魔竜・ボスの爪と鱗ですよ! 競売に掛けたら莫大な値が付くのではありませんか?」

「!、気付きませんでしたが、確かにそうです! 今まで属性魔竜の素材など国内に出回った事はありませんな!」

「私の知る限り異国から輸入された事も無いはずです。異国の英雄が、遥か昔に狩った事が有ると言う伝説があるだけです。」

「なるほど、確かに殿様があれをどうなさるか気になりますな。」

俺は油断していた。以前まだ今ほど強くなかった時にも、ボスの素材を狩り取った事はある。だがあの時は彩と2人きりだったし、非常用の武器に加工しようと秘密にしていた。だが今回は余りに自分が強くなっていた喜びで、注意や警戒を忘れていた。大和家の家臣だけでなく、他家の家臣にも見られた以上、この事実を隠蔽する為には全員を殺す必要がある。だが俺も彩も、そもそも属性魔竜・ボスの素材を狩った事が噂になる事を思い付きもしていなかったのだ。

俺達が食事と鍛錬をしている間に、もう1つの事が動いていた。それは昨晩家臣を使者を送った東北の各貴族家・士族家が、案内役の家臣を送ってきたのだ。本来なら色々な交渉や手続きが必要なのだろうが、俺と彩が王命で受けた依頼だ、各家は急ぎ人選して家臣を送り出した。

各家も冒険者組合・狩場を設置して欲しいと切実に願っていたし、同時に王家・王国に目を付けられたくないとも思ってた。下手に逆らえば家の改易も有り得るのだ、俺と彩を家臣に加えた王家・王国の戦闘力は圧倒的で、全ての敵性貴族家攻め滅ぼすかもしれないと言う、荒唐無稽な噂が貧困街から囁かれ始めていたのだ。

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