奴隷魔法使い

克全

第223話新規役目

『王都謁見の間』

「大和子爵・子爵夫人、よく来てくれた。」

『国王陛下の御尊顔を拝し奉り恐悦至極でございます。』
俺と彩は声を合わせて答えた。

「よいよい、この場は余と近臣しか居らぬ、堅苦しい言葉遣いは無しじゃ、のう間部。」

「左様でございますな、余り不敬な言葉で無ければ大丈夫でございましょう。」

(おいおいそれが判らないんだよ、きっちり決めてくれなきゃ困るんだよ、後で不敬罪で斬首など御免被るよな、彩。)
(そうですわね、私は極力話さず横で大人しく控えて居ります、御話は全て殿様に御任せします。)
(苦手だけど仕方ないね)
俺と彩は念話で愚痴を言いつつ畏(かしこ)まっていた。

「それで大和子爵、今日呼んだのは貴君に任せたい仕事が有るのだ。」

「は! 私に出来る事なら粉骨砕身努めさせて頂きます。」

(嘘だよ~ん、狩りの合間のついでにさせて頂きますよ~。)
(まあ、殿さまったら。)

「うむ、よくぞ申してくれた。貴君が狩ってくれた莫大な魔竜魔獣の在庫整理が進んで来てな、そろそろ輸出しても大丈夫な段階に来ておる。ただ先の新井の件も有り、異国との取引を担当している者を全面的に信用する事が出来なく成った。そこで貴君を臨時次席大臣に任じて全権を預け、長崎の貿易を観察して来て欲しいのだ。」

「それをお受けする事は吝(やぶさ)かでは有りませんが、仕官武術大会の立ち合いはどういたしましょうか?」

「最近は狩りの合間に検分するだけで、王都家老と闇奴隷売買犯確保で活躍した7人に任せておるのだろう?」

(好く御存じで。)
(本当ですね殿様、迂闊なことは出来ませんね)

「はい、朝野も7人もよくやってくれております。」

「そこでな、今回も長崎辺りの魔境の狩りのついでにやってくれればいいのだよ。」

「狩りの合間で宜しいのですか?」

「うむ構わん、それと長崎に行く前にやって貰いたい役目も有るのだ。」

「何でございましょう?」

「甲府城代が1000石分の検地が出来たので、是非とも奴隷冒険者千人組を移転させて欲しいと奏上して来た、そこで貴君に伊豆大島奴隷冒険者千人組を指南してやってて欲しいのだ。」

「それは喜んで御受け致しますが、千人頭は留任でございますか?」

「いや、貴君が献策していたように、奴隷冒険者の被害を多く出すような者は不適格だと判った、そこで新たな千人頭が選ばれたから安心致せ。」

「は、その者とは会えるのでしょうか?」

「まあ心配いたすな、多摩代官の鈴木が推薦した者じゃ、愚か者では無かろう。」

「それを御聞きして安心致しました、ですが安心して役目を御受けするのは、妻を正式な添役に任じて頂きたいのです。」

「う~む、女子を王国の正式な役目に任ずるのは難しいのだがな。」

(国王陛下の顔色を伺ってるね。)
(はい殿様、陛下はどう思われておいでなのでしょうか?)
(陛下は彩に役目を与えたいようだね。)
(はい、陛下の目配せはそう見えます。)

「だが貴君の狩りには奥方の助力が不可欠で有ったな、先の国王陛下暗殺未遂事件でも奥方の活躍は衆に抜きんでいた。奥方としての任官は難しいが、大和準男爵として次席大臣添役として働いて貰おう。」

「は! 謹んで添役を御受けさせていただきます。」

(宜しくね彩。)
(これでどこにでも一緒に行けますね、御殿様。)

「では2人とも国王陛下の為王国の為、役目を全うする様に!

「は!」

『佐渡・新潟飛び地沖合』

「殿様、気を引き締めて参ります。」

「そうだね、何が潜んでいるか判らないからね。」

俺達は甲府奴隷冒険者千人砦が完成するまで狩りを続ける事にしたが、どうせなら佐渡の状態を確認する事にした。特に佐渡周辺の海にいる魔獣や魔竜を確認をする事を重視した、もしボスを狩る事ができて佐渡島を上陸確保するなら、陸戦より海戦が人には不利だろう。上陸するまでの船上から魔獣魔竜に対抗する術が有るのか試さなければいけない。

海上であるため境界線を正確に線引きできない、つまり安全な狩りは不可能に近い。最低でも俺が開発した武具を中級以上の魔法使いに装備しないと即死だろう。海上から確認できた大型の魔竜だけを確実に仕留めて行った。海で生息しているため、呼吸器を攻撃しても即死にはつながらないと考え、脳を直撃する攻撃を試した。

俺の感覚からはネッシーみたいな奴や巨大な鯨みたいな奴、鰐とネッシーの中間や鰐と鯨の中間だ。しかし海中の様子が判らないから、迂闊に倒した獲物に近づくと危険だ、その為に陸の狩り以上に重力軽減魔法が必要に成る。

「殿様、中々ボスが現れませんね。」

「そうだね、このままじゃボスが来る前に魔法袋が一杯になっちゃうね。」

「佐渡も属性魔竜がボスなのでしょうか?」

「どうだろうね、竜型なのか全く違う姿なのか想像もつかないよ。まあ今日は大猟だしこの辺で帰ろう。」

「はい殿様。」

『王都・冒険者組合・買取所』

「これはこれは子爵閣下・奥方様、今日も狩りの獲物を競売に御出し下さるのですか?」

「うむ、今日は試しに海上で狩りをしたのだが、今までに海魔獣・海魔竜が競売に掛けられたことは有るのか?」

「なんと! 海の魔獣魔竜でございますか! 今までは偶然小さな海魔獣が狩られた場合だけ競売されたことは有ります、しかし海魔竜が競売に掛けられる事は有りませんでした。大型の海魔獣や魔竜の素材や商品は輸入に頼り切っております。今から急いで好事家や職人・商人に知らせを送りますから、明日以降の競売になされてはどうでしょうか?」

「うむ、それでよいが、最低落札価格の設定はどうなるのだ?」

「今現在輸入されている素材や個体はそれを元に値付け致します、初めての素材や個体は最低落札価格を設けず、子爵閣下が納得できる価格でなければ拒否出来るように致しましょう。」

「うむ、それでよい。」

エラスモサウルス   25トン
キンボスポンディルス  8トン
クロノサウルス    50トン
ショニサウルス    30トン
ティロサウルス    10トン
モササウルス     40トン
リオプレウロドン   15トン
リードシクティス  200トン

『佐渡・大和家新潟飛び地沖合』

「今日こそボスを誘いだせればいいですね、殿様。」

「ああ、今日は昨日より少し奥まで入り込もう。」

「はい殿様。」

俺と彩は魔境内と思われる海域を、佐渡島の周囲を丹念に巡る様に探索して行った。しかし2日目も2人の魔法袋が一杯になるまで狩ってもボスは現れなかった。袋に入り切らない狩りは虐殺でしかないので、一旦王都に帰り獲物を冒険者組合に預ける事にした。

『王都・冒険者組合・買取所』

「大和子爵閣下、今日も獲物を持ち込んで下さったのですか?」

「そうだ預かってくれるか?」

「はい、多摩では無く此方に運んでくださると言う事は、海魔獣海魔竜ですか?」

「ああそうだ、今宵に競売が行われるのか?」

「はい、連絡をした者たちは皆、取るものも取りあえず集まるようでございます。」

「そうかそれは楽しみだな、しかしどれくらいの量を預けておけるのだ? 余と奥なら毎日何度でも昨日と同じ量を狩ってこれるぞ?」

「それは正直困りましたな、競売で毎日確実に売捌ければよいのですが、最低落札価格に至らず獲物が残るようでしたら、5回分で組合所有の魔法袋が満杯に成ってしまいます。」

「ならば長崎・琉球・対馬・蝦夷の組合に、余が輸出用の海魔獣海魔竜を持参するので、異国と王国の商人に競売を希望すると念話で連絡を取っておいてくれ、量と種類は昨日と今日持ち込んでいる獲物を参考にしてくれ。」

「それは、私の独断では決め兼ねるのですが。」

「うむ、王都の組合が役に立たぬのであれば、多摩の組合を主力にするか、唐津の領内に新たな組合を余が直々に立ち上げるがそれでもよいのか?」

「御待ち下さい! 私めが悪うございました、直ちに連絡して手配させていただきます、どうかこれからもお取引願いますように、伏してお願い申し上げます!」

「うむ、では今日の獲物を確認してもらおうか。」

『王都・王城』

「これはこれは大和子爵閣下と準男爵閣下、急な登城何事でございますか?」

流石に大手門を警備する士族だ、彩が武装しているのを見て、貴族として遇するべきと即座に判断したな、ならば話が早い。

「先日国王陛下から次席大臣と添役の任を頂いたのだが、長崎の正式赴任前に視察をしておきたくてね、その許可を頂く書面を奏上したくてな。」

「左様でございましたか、次席大臣就任と添役就任おめでとうございます。ただまだ我らまで布告が届いておりませんので、今は子爵閣下と准男爵閣下として取り次がせて頂くしかございません。城門を通って頂く事には何の問題もございません、ただどの部屋に御案内すべきかで迷います。」

「どいう事だい?」

「子爵閣下でしたら大広間席(おおびろま)だと思われますが、准男爵閣下は菊間広縁(きくのま ひろえん)かと思われます。しかし次席大臣となれば御用部屋に御案内しなければなりません。」

「う~ん困ったな、添役とは一緒にいないと非常時に国王陛下の御役にたてないのだよ。」

「その事は私も聞き及んでおります、されば子爵閣下が菊間広縁の准男爵閣下を訪ねて話し込んでいると言う体裁と取られてはいかがでございましょうか? 准男爵閣下が大広間席に長居するのは問題が起きかねませんが、それならどうにでもなります。」

「そうさせてもらおうか、それに我らは書面を奏上出来ればいいのだ。」

「それでしたら芙蓉間の奏者番の方々に手渡しされるか、御用部屋の大臣方に手渡しされればよいのではないでしょうか?」

「うむ、そうさせてもらおう、案内を頼めるかな?」

「承りました。」

俺と彩は一旦最初に菊間広縁に入り取次を待った、幸いにも間部筆頭大臣が御用部屋に居られたので、早速案内して貰った。そこで長崎・琉球・対馬・蝦夷の4ヵ所の異国貿易口への先乗り許可を求めた。間部筆頭大臣は国王陛下へ早速奏上してくれたが、その場にいた各担当大臣とも協議の上で、2割の献上分を現物で王家に届ける事で話が付いた。王国としても、貴重な海魔獣・海魔竜の素材を確保しておきたかったのだ。国内民間で在庫の保管が不可能な以上、海外への輸出は仕方ない。大和子爵家の献上した資金で、全ての海魔獣海魔竜を王国で購入する案も出たが、俺のこれからも幾らでも狩れると言う話で輸出許可が出た。

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