「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集5

克全

第68話

「どうされますか、お嬢様」

「そうですね、即断は難しいですね。
兄上に使者を送ってください」

「分かりました」

アーレンから届いた手紙には、今のところ毒も呪いも発生していません。
ですが、内容はとても衝撃的なモノでした。
それは、あれだけの事をやらかしておいて、正式な交易を認めて欲しいという、あまりにも身勝手なものでした。
それも、私が作り出す薬を優先的に売って欲しいというものです。

ですが、まずは自国の民に私の薬の恩恵を広げたいと思っています。
だからアーレンとの取引を優先するのは嫌だったのです。
でも、取引量が増えれば経費が低下し、薬の価格を安くする事ができます。
薬を安く出来れば、国民の多くが薬を手に入れる事ができるのです。
それが私を迷わせます。

本来ならば、責任は私自身がとらなければいけません。
だから決定も私がくださなければいけません。
しかし、最終的な決断決定をくだす権限は私にはないのです。
今の国の全権は、兄レイズが握っています。
だから兄のレイズに相談しなければいけません。

だが、今までのように簡単に行き来する事はできないのです。
私は王都内にあるノドン子爵邸で厳重に守られています。
兄のレイズは、ノドンダンジョンのあるノドン子爵領に居座っています。
兄が一年以上居座り続けるほど、ノドンダンジョンから発見される物は貴重で、とてもではないですが私とオウエンには任せられないと、兄が考えていたからです。

兄は色々な方法を考えたようですが、一時王都に戻ることにしました。
ノドンダンジョンから発展される神具の独占管理も大切ですが、それ以上に私との関係が大切だと考えたようです。
ほとんど従属爵位と言える状態ではありますが、ノドン子爵家とミルド子爵家は、表向きは独立した貴族家です。

今の兄の行いは、正しい貴族家同士の関係とは言えないのです。
実の兄妹という状態だから成り立っているだけで、普通なら野心的な他国がノドン子爵家とミルド子爵家に好条件を提示して、離反や反乱を唆すところです。
実際には多くの密偵がノドン子爵とミルド子爵に接触しようとしています。
そんな密偵を、兄は人知れず始末させていました。

そんな兄から見れば、アーレンの手紙が私に届いたこと自体が大問題なのです。
そんな危険な手紙は、兄が送り込んだゴードン公爵家出身の家臣が排除しておくべきものなのです。
実際の他国からも手紙や密偵は完璧に排除しているようです。
それなのにアーレンからの手紙だけが、私の手元にまで届いているという事は、ノドン子爵家に裏切り者が入り込んでいるという事なのです。


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