「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集5

克全

第59話

「ごめんね、オウエン。
本当はオウエンもダンジョンに行きたいよね」

本当に申し訳ない事です。
六竜騎士とまで称されるオウエンは、圧倒的な戦闘力を持っています。
そして、冒険が大好きなのです。
人を殺すのではなく、魔獣を相手に、今まで鍛えた全力を出せるのです。
武人の本懐は、魔境やダンジョンでの戦いだと言う人さえいるのです。

その魔境やダンジョンでの戦いも、戦場での功名も、私の護衛騎士となったことで、手に入らなくなってしまったのです。
あの当時は、まったく結ばれる可能性のない私を護るために、全てを捨ててくれたのです。

それは今もそうです。
私や子供達を護るために、戦う機会を捨ててくれているのです。
オウエンならば、新発見のダンジョンであろうと、簡単に制覇できるはずです。
新発見のダンジョンを制覇した名声は、大陸中に鳴り響くのです。

「確かに行きたいのは行きたいです。
新発見のダンジョンを制覇する爽快感は、たまらないものがあります。
でもそんな事は、愛する家族を護る事に比べたら、ほんの些細な事です。
お嬢様とアレクサンダーとスライダイが、笑って暮らす生活に比べたら、塵芥のようなものです。
気になさらなくても大丈夫ですよ」

「オウエン、愛しているわ!
貴男だけを、ずっと貴男だけを愛してきたわ!
これからも、貴男だけを愛し続けるわ!」

私は、思わずオウエンに抱きついてしまいました。
強く、強く抱きついてしまいました。
想いのたけを全てぶつけるように、抱きついてしまいました。
溢れんばかりの愛情を、全てぶつけて抱きついてしまいました。

オウエンも抱きしめ返してくれました。
強く強く抱きしめ返してくれました。
オウエンの想いが私に伝わってきて、とても幸せな気持ちになれました。
オウエンの想いが高まり、溢れそうになるのが分かりました。
その想いにこたえる準備はできていました。

心得たもので、二人の乳母はアレクサンダーとスライダイを抱いて、部屋から出て行ってくれました。
私とオウエンは愛情を確かめ合いました。
強く深く、何度も愛を確かめ合いました。
時の経つのも忘れて、無我夢中で愛し合いました。

私は確信しました。
三人目の子供が宿っています。
私とオウエンの愛の結晶が、このお腹に宿っているのです。
今度も男の子が欲しいなんて、贅沢な事は申しません。
五体満足で無事に生まれてきてくれたら、男も女も関係ありません。
私とオウエンの愛の結晶が、この世に誕生してくれさえすれば、それで幸せです。


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