「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集5

克全

第54話

私の質問に、オウエンが言い淀みました。
よほどの事なのだと、改めて思いました。
百戦錬磨で、酷く残虐な戦場も経験しているオウエンが、言葉に詰まるのです。
私は気を引き締め直して聞く覚悟を決めました。
私の顔つきと目をみて、オウエンも話す気になってくれたようです。

「落ち着いて聞いて下さい。
こんな話を聞いて、産気づいてもらっては困ります」

まあ、本当にとんでもない話をするようですね。
あ?!
今閃きました。
たぶん、私が今思ったことが正解だと思います。
私が産気づくほどの話となると、家族友人の絡んだ話だと考えられます。
恐ろし話ですが、家族友人が死傷させられたという話になります。

でも、今は私達が有利に事を進めています。
私達をこれ以上怒らせるようなマネは、余程のバカでなければやりません。
彼らはバカではありませんから、友人知人を死傷させることはやりません。
これが領内に住ませてもらう話でなければ、誘拐してそれを条件に交渉する事でしょうが、住み続けたいのにこれ以上恨みを買うようなマネは絶対にしないはずです。
だとしたら、私達のご機嫌を買うために、私達が嫌っている相手を殺した!

「オウエン。
彼らはアーレンを殺したのですか?」

「はい、間違いない証拠を持参したうえに、接収したアーレン商会の金銀財宝も持ってきました」

そうでしたか、アーレンが殺されましたか。
確かに、彼らにできる私達との和解策は、それしかなかったかも知れません。
それにしても、あのアーレンが殺されましたか。
オウエンが首を確かめたのなら、影武者という事はないでしょう。
戦場往来のオウエンが確かな証拠というのなら、首でしょうからね。
確かに生首では、妊娠中の私に検めさせるわけにはいきませんね。

「金銀財宝はどれくらいあったのですか?」

「鉱山や開拓地の上納金だけでなく、薬草の売り上げや、他の商品の売り上げもあったようで、我が家の年収の三倍はございました。
地下用水路技術者と鉱山技術者が渡した賠償金の十倍以上ありました」

さすがアーレンというべきか、商売上手だったのですね。
それでも、この大陸中に存在するアーレン商会の財産のごく一部でしょう。
闇世界で絶大な影響力を持っていたという話ですが、アーレンがいなくなったら残りの財産はどうなるのでしょうか?

愚か者のダグラスが殺されていなかったら、彼が継ぐのでしょうか?
闇世界の者が乗っ取るのでしょうか?
それとも、私が知る以外の家族がいて、その者が引き継ぐのでしょうか?
少々気になりますね。
兄上に連絡して監視してもらいましょう。
後継者になる条件が、前当主アーレンの敵討ちだったりしたら、寝首を掻かれるかも知れませんから。


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