「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集5

克全

第42話

「やあ、メイソン男爵。
君がここに来るとは思わなかったよ。
グラント公爵に断ってきたのかい?
ちゃんと断っておかないと、裏切ったと思われて殺されちゃうよ?」

「え、いえ、そんな心配は……
申し訳ありません、レイズ卿、ノドン男爵。
急用を思い出しました。
今日はこれで失礼させていただきます」

また兄レイズ卿に借りができてしまいました。
我が家が多くの貴族一族に押しかけられている事を、新たに召し抱えた武官家臣から報告を受けたのでしょう。
忙しい時間を調整して、我が家に来てくれました。
無理難題を押し付けようとする貴族家一族に、強烈な脅しをかけてくれました。

特に娘のアメリアを切り捨てて、今迄後ろ盾になってくれていたグラント公爵家を裏切り、我が家を通じてゴードン公爵家に寝返ろうとしていたメイソン男爵は、強烈な脅しを受けることになりました。
よほどの覚悟があったのか、他の貴族家は一族を送って当主が直々に来る事はなかったのに、メイソン男爵は自分自身で乗り込んできました。

ですが、その分言い訳がきかないのです。
兄レイズ卿の流す噂一つで、メイソン男爵がグラント公爵に殺されます。
兄上の事ですから、最も効果的な噂を流すでしょう。
時期は直ぐですね、時間をおいては何の意味もない情報です。
今日のうちに情報を流すでしょうが、味方に引き込むか潰すか?

兄上なら潰されるでしょうね。
あのような、またいつ裏切るか分からない男は、後腐れないように殺すはずです。
しかも、グラント公爵の名声と求心力が落ちるように仕向けます。
たぶん、グラント公爵がメイソン男爵を脅したという噂を流しますね。
裏切るしかないような無理難題を、グラント公爵がメイソン男爵に要求して脅したと言う噂を、社交界に流すでしょう。

実際、色情狂王太子とアメリアの不始末を処理するために、グラント公爵は家を傾けかねない失政をしてしまいました。
多くの貴族の常識からすれば、メイソン男爵に賠償を求めるのは当然の事です。
ですが、それは、常識ではあっても、頼ってきた寄子に無理難題を押し付けたという悪評と表裏一体です。

グラント公爵に力があるときは、公爵に近い者は当然ですと言います。
ですが、グラント公爵が力を落とした時は、今迄近寄っていた者が逃げて行き、敵対していた者や遠くにいた者は、寄子を喰いモノにする悪辣公爵と罵ります。
そして今のグラント公爵家は、目に見えて力を落としています。
兄上から見れば、徹底的に叩くべき時でしょう。
兄上はこの件でグラント公爵を更に追い込むはずです。

私がこんな風に考えられるようになったのは、アーレンと兄上に鍛えられたからですが、礼を言う気にはなりません。

「「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集5」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く