「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集5

克全

第41話

「オンギャア、オンギャア、オンギャア」

「男の子ですよ。
玉のように光り輝く赤ちゃんですよ」

オリビア母さんが声をかけてくれます。
痛みと苦しみ疲れで、身体はヘトヘトですが、心は躍動しています。
無事に子供を生むことができました。
私の子供です。
私とオウエンの愛の結晶です。

赤ちゃんが生まれるまでは、男の子でも女の子でも、無事に生まれてくれたら、どちらでもいいと思っていました。
ですが実際に赤ちゃんが生まれたら、ノドン男爵家の当主としては、跡継ぎの男の子を生めたことで、大いに安心できた自分がいます。

「入ってきていいですよ、オウエン」

「失礼します。
おお、この子が僕たちの子供なんですね、閣下」

「そうよ、オウエン。
この子が私達の愛しい子、アレクサンダーです」

「名前はアレクサンダーに決めたんだね。
勇ましい騎士に育って欲しい。
この手で槍術と剣術を教えてやりたいな」

「ええ、ええ、ええ。
大きくなったら教えてあげてね」

私は子供に乳をあげながら話しました。
オリビア母さん達は、完全に乳母に任せた方がいいと言いましたが、私は自分で育てたかったのです。
短い庶民生活でしたが、その時に愛しい子を抱き乳をやる母親の姿を見て、自分のこの手で子供を抱き乳をあげ育てたいと思ったのです。
いえ、庶民になったのだから、そうやって育てるモノだと思っていました。

貴族に戻って、ノドン男爵家の当主になっても、その決意は変わりません。
男爵家の当主としての体面や、忙しい事も考えれば、完全に自分一人で育てることは不可能で、乳母に任せなければいけない場合はあります。
ですが、自分でやれる時には、自分の乳を飲ませてあげたいのです。
抱きしめられる時には、ギュッと抱きしめてあげたいのです。

「男爵閣下。
多くの貴族家からお祝いが届いております。
家臣ではなく一族の使者が参っている家もございます。
いかがいたしましょうか?」

アレクサンダーが生まれた翌日には、どこでどう調べたのか、ゴードン公爵家と縁を結びたい貴族家が、祝いを送ってきました。
家臣に持ってこさせてくれれば、我が家の家臣が対応すればすみます。
ですが、貴族家の一族が持ってくるような場合は、我が家も一族が対応しなければなりません。
はっきり言って迷惑です。
分家したばかりの我が家では、対応できる者が殆どいないのです。

私が男なら、妻が子を生んでも、私が対応することができます。
他の貴族家の一族なら、見下す態度をとれます。
ですが、我が家は女の私が当主で、私自身が出産しているのです。
対応できるのは、配偶者のオウエンになりますが、騎士団を引退しているオウエンは、個人としては士族でしかありません。

やってきた貴族家の一族によりますが、見下す態度をとられてしまいます。
何か無理難題を押し付けられるかもしれないのです。
ここは早急に何とか手を打たなければいけません。

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