「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集5

克全

第39話

「荒地開拓の話を、裏世界にも通じているコーラル家のアーレンから持ち掛けられているんだろ。
しかも、地下資源の独占や、薬の素材販売を絡めてだ。
貴族間の闘争を警戒して断ったようだけれど、素直にアーレンが諦めないと予想したのは正解だよ、今もこの屋敷は見張られている」

本当に兄上は油断のならない方ですね。
六竜騎士の武勇に加えて、色々な才能も顔を持っておられます。
時と場所と相手にあわせて、違う顔を使い分けられます。
聖騎士のような清廉潔白な顔を見せる事ものあれば、ゴードン公爵家の跡継ぎとして権謀術数に長けた陰謀家の顔を見せる事もあります。
ここは兄上の派閥に入るのが無難でしょう。

「やはり兄上の派閥に入るのが最適のようですね。
守ってもらう見返りに、私がしなければいけない事はなんですか?」

「さすが我が妹だ、判断が的確で速いね。
簡単な話だよ。
ゴードン公爵家の盾にも剣にもなれる、強力な分家になってくれること。
そのための費用を自分で稼いでくれること。
ただ今のノドン男爵家にそんな力はないから、資金稼ぎから始めてくれ。
武官家臣を紹介するから、自前で召し抱えてくれ。
それがそちらの願いとも合致するだろ」

「承りました、兄上。
ですがノドン男爵家の収入では、召し抱えられる家臣に限りがあります。
兄上が望むような強い分家にするのは不可能です」

「その心配はいらないよ。
シャノン公爵家に圧力をかけているから、また領地の購入を頼んでくるよ。
その時に荒地を手に入れて、アーレンに地下資源を掘らせればいい。
荒地は農地に変えられるし、アーレンが目をつけるような、莫大な地下資源も手に入れられるから、その利益を使ってノドン男爵家を伯爵家に陞爵させてくれ。
裏工作と手続きはこちらでやるから」

やれ、やれ。
兄上はアーレンが私に接触した頃から、こうなる事を全て読んでいたのですね。
予想できるだけの情報が集まり、いえ、集められるようにしていた。
それだけの智謀をもっておられるのですね。
味方ならこれほど頼りになる方はいませんし、敵に回したらこれほど恐ろしい方はいません。

「アーレンが抵抗したり裏をかいてくる事はありませんか?
戦う事は恐れませんが、お腹の子に危害が加えられるのは怖いのです」

「分かっているよ。
近衛騎士団は動かせないけれど、王国第一騎士団の一部に護衛をさせる。
指揮官にハンター男爵デイヴィッド卿とその子飼いを派遣するから、裏世界の人間でも早々動けいない。
ノドン男爵家に召し抱えてもらう武官家臣は、近衛騎士団と第一騎士団の腕利き部屋住みを送るから、アーレンが抵抗したら王家の騎士家を敵に回すことになる。
早々動けないよ」


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