「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集5

克全

第36話

「オウエンは何か思いつくことはありますか?」

「そうですね、普通に考えれば、裏社会の人間が欲しがるのは金銀財宝に薬です。
そう考えれば、荒地で金銀財宝を探す事と、薬の素材を栽培させることでしょう」

「そうですね。
私にもそれくらいしか思い浮かびません。
水の道ができて、それなりの人数が荒地の奥深くまで入れるようになれば、今迄は採掘できなかった金銀財宝を手に入れられます。
それを監視する事はできるでしょうか?」

「今のノドン男爵家では不可能だと思われます。
信頼できる家臣が少なすぎます。
新たな家臣を召し抱えても、アーレンの手先の可能性があります。
召し抱えた時には関係なくても、簡単に調略させて、裏切られてしまいます。
それに、鍛えられた士族の多くが、王侯貴族のひも付きです。
必ず情報が洩れて、大きな紛争になります。
荒地を売ったシャノン公爵家が必ず難癖をつけてきます、
恐らくグラント公爵家とゴードン公爵家が介入してきます。
ハワード王家も王家や国に献上を求めてくるでしょう」

オウエンの懸念はもっともですね。
我が家で解決できる問題ではありません。
これならば、荒地を手に入れるのは止めた方がいいでしょう。
騒動を起こすくらいなら、少々の利は捨てた方がいいです。
男爵家の体面を保てるくらいの耕作地だけ購入しましょう。

問題はそれをアーレンが認めるかどうかです。
どうしても荒地が欲しい場合は、素材の販売を止めるでしょう。
ですが、素材は以前のように王都近郊の魔境で集めればいいだけです。
農地を購入すれば、グラント公爵家とゴードン公爵家が魔境の立ち入り禁止を画策する事はなくなるでしょう。

「ノドン男爵ノヴァ夫人。
これはどういう事ですか?
昨日までの話では、荒地を手に入れる事になっていましたよね?
急に話を変えるようでは、私も交渉役を続ける事はできません」

「そうですね。
信頼感がない者と主従関係を結ぶことも、仕事を任せる事もできません。
荒地の地下資源を隠れて採掘しようとしている者を、大切な役目に付けることも、貴族同士の交渉に使う事もできません」

「ほう!
お見事です!
よく気がつかれました。
このまま気がつかないようでしたら、遠慮なく金銀財宝を採掘するつもりでした。
ですが気がつかれた以上、今度は分配条件を話し合いましょう。
これでも大分ヒントを差し上げたのですよ。
荒地に疏水と地下用水路を作り、荒地を農地に変えられるのは、鉱山技術者集団だと申し上げていたでしょ」

本当に面の皮が厚いです。
私達が愚かなら全てを奪うつもりだったのに、私達が気がついたら条件交渉に変えてきました。
とてもこれ以上交渉できるとは思えません。
これで全てやめにしましょう。

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