「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集5

克全

第24話

「ノヴァ女男爵閣下。
これが今日の薬代金でございます。
明日も参らせていただきますので、どうかよろしくお願いいたします」

今日の入札に成功した商人が、平身低頭で話しかけてきます。
残念です。
このような金の亡者ではなく、本当に人々のために薬を広めたいと思う人に落札して欲しかったのですが、今回はこの男が一番高値を付けてしまいました。
我が家が裕福ならば、こんな男に薬を販売しないのですが……

「ノヴァ女男爵閣下
色々とこれからの取引の事を相談させていただきたいのです。
独占契約をさせていただけるのなら、もっと高値で購入させていただけます。
二人きりで、ウギャアア!」

馬鹿な男です。
表面だけ取り繕っていますが、内心の獣欲が見え見えです。
あわよくば私と肉体関係を結んで、薬作りの秘術を盗みたいのでしょう。
そのような邪心を持って私に近づけば、オウエンに排除されるのは当然でしょう。
この場で殺されなかった事を感謝すべきです。
ここまで甘く見られたら、私も腹が立ちます。

「オウエン。
オリビア母さん。
正直この男は不愉快すぎます。
私に乱暴しようとしたとして、殺してしまってもいいでしょうか?」

「私も殺したい気持ちですが、実際に襲いかかったわけではありません。
これで殺すと、薬を渡さずに薬草代金だけ手に入れようとして、無実の罪でこの外道を殺したという、悪い評判がたってしまいます。
ここは閣下の手を握ろうとした不敬罪で、片手を斬り落とすくらいにしておく方がいいと思われます」

オウエンが一応諌言してくれますが、その眼は殺したいと訴えています。
私に利害を超えて処刑命令を出して欲しのでしょう。
私も処刑命令を出したいです。
オウエンの前で他の男に言い寄られるなんて、とても耐えられません!

「そうでございますね。
この者の家族に選ばしたらいいのではありませんか。
家族と店の者を呼び出して、この腐れ外道がノヴァの二人きりになりたいと、あまりにも不敬な言動をした上に、実際に手を取ろうとした。
それゆえに取り押さえた。
ですが入札に成功して薬を落札したのも事実ですから、この男を不敬罪で処刑するが、落札通りに薬を代金と引き換えに渡すのか。
それとも、不敬罪を許す代わりに、薬代を賠償金として支払って薬を諦めるのか。
家族と店の者に選ばせれば、この者の普段の行い通りの裁きができます」

「まあ、オリビア母さんは、どういう結末になると思っているの?」

「家族にも店の者にも見捨てられ、オウエンの手で殺されることになると思います」

「では、家族と店の者を呼び出してください。
それまではどこかに閉じ込めて、私の眼に触れないようにしてください。
あ、もちろん声も聴きたくありません」




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