「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集5

克全

第12話

メイソン男爵家は、大陸中に数多くの支店を持つ、大陸一二の大商人と呼ばれる男が、百人を超えると噂される子供一人、アメリアのために買い与えた爵位です。
そのアメリアが王太子の婚約者になり、王妃の座まで見えてきたとなれば、資金援助は惜しまないでしょう。
遠慮も心配も全く不要でしたね。
こういう状態だからこそ、タッカー男爵クロフォード卿は、寄親のグラント公爵への不信を公言したのですね。

「これだけあれば、世間から隠れて心静かに暮らせるわね。
今直ぐ国境を越えたいのだけれど、残念ながらオウエンがいないの。
オウエンがいなくては、心配で逃げられないわ。
ここでオウエンを待ちたいのだけれど、いいかしら?」

「私達が護衛すると言っても、納得していただけないようですね」

「もし貴男が私の守護騎士だったら、この状態で移動していいと、護るべき大切な主人に言うのかしら?」

「絶対に言いませんね。
何があっても地下道で時間を稼げと言いますね。
そのための魔道具や作戦も渡しておきます。
オウエンの援軍に行きたいところですが、我々がいなくなった状態で、他の連中が襲ってきたら困りますし、オウエンを信じて待つしかありませんな」

ピィィィィィィ。

「聖女ノヴァ様。
地下道の奥に隠れてください」

またも他の勢力が襲ってきたようです。
本当に忙しい事です。
タッカー男爵が隠れてくれと言うくらいですから、先ほどのような烏合の衆、犯罪者崩れの連中ではなく、鍛えられた者達なんでしょう。

「隠れましょう、母さん」

「ええ、私の陰に隠れていてください」

だいぶ精神的に落ち着けたようです。
また親子の会話に戻れました。
咄嗟の時にも、同じように会話できるようになりたいですね。

「どけ、どれ、どけ、どけ!
俺達は近衛騎士だ!
イーサン王太子殿下の命令で動いているんだ!
邪魔をする奴は貴族であろうと処罰するぞ!
どけ、こら、ボケ!」

最低ですね。
私のいない間に、近衛騎士の質が怖いくらい劣化しています。
恐らくですが、多くの近衛騎士に愛想を尽かされて、新たに御追従の巧みな者達を近衛騎士に選んだのでしょう。
末期的な状態ですね。

「誰の命令であろうと関係ない。
士族ごときが、それも昨日今日御追従で騎士に叙勲された程度のモノが、貴族にそのような口をきけば、無礼討ちにされてもしかたがないと理解しているのか?」

「う!
う、う、う、うるさい!
俺達にはイーサン王太子殿下とメイソン男爵がついているんだ。
貴族であろうと逆らえると思うなよ!」

「分かった。
今の言葉、このタッカー男爵クロフォードに対する挑戦と理解した」

「げっえええ!
すまねえぇぇ!
許してくれ!
この通りだ!」

どうやら地に這いつくばって謝っているようです。
生き延びるためなら、そんな事まで平気でやれる、名誉も誇りもない連中ですね。
タッカー男爵はどうするのでしょうか?

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