「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集5

克全

第9話

「隠れても無駄ですよ。
さっさと出てきてもらいましょうか。
出てこなければこの子を殺しますよ。
仮にも聖女と言われた人だ。
こんな子供を見殺しにはできないですよね」

「うぐむぐ、ぐむ、うぐ、むぐ」

そんな事はありません。
他の子なら見殺しにはできませんが、ダグラスは別です。
オウエンを危険にさらしたダグラスは、見殺しにできます。
できるつもりでした。
できると思っていたのですが……

「うぐむぐ、ぐむ、うぐ、むぐ」

「暴れるなクソガキ!
これ以上暴れたら腕の一本も斬り落とすぞ!」

「待ちなさい!
その子を傷つけてはいけません!
少しでも傷つけたら、ただではおきませんよ!」

「だったら直ぐに出てきてもらいましょうか。
なあに、直ぐに殺したりはしませんよ。
いえ、殺すなんてもったいない。
元聖女様なら、大金を積んでも欲しいという金持ちは、幾らでもいるんです。
痛いのは最初だけですよ。
直ぐに天国に連れて行ってくれますよ。
うひゃひゃひゃひゃ」

見殺しにできると思っていたのですが、私は自分で思っていたよりも決断力がない、優柔不断な性格のようです。
それにしても、今度の相手は随分下品なようです。
このような人間なら殺す決断ができるでしょうか?
もう聖女の力を失ってもいいので、このような悪人を殺せる決断力が欲しいです。

「話し合いましょう。
私達を人質にして、ゴードン公爵と交渉してはどうです?
ハワード王家のイーサン王太子でも構いませんよ。
きっと金持ちに売るよりも大金を払ってくれますよ」

オリビアが交渉を始めてくれました。

「うひゃひゃひゃひゃ。
婆さんは黙っていな。
残念だがそうはいかないんだよ。
俺達は元聖女を殺してくれと大金を積まれているんだ。
それこそ身代金の相場を超える大金をな。
だ、か、ら、ゴードン公爵やイーサン王太子の相手はできないんだよ。
だけどな、遠く離れた国の金持ちは別なんだよ。
依頼主にバレない相手なら、売ることができるんだよ。
うひゃひゃひゃひゃ」

最悪最低の相手のようです。
このような奴が相手では、私が出て行っても、ダグラスは助かりません。
殺されるのは確実でしょう。
いえ、そうとも限りませんね。
こういう奴こそ命を惜しむ可能性が高いですね。

「貴方のような奴が相手では、ダグラスを助けるという約束は信じられません。
でも覚悟しなさいよ。
ダグラスはコーラル家の跡継ぎです。
コーラル家のアーレンが、跡継ぎを殺した者を許すと思っているのですか?」

「なに?!
コーラル家のアーレンだと?!
ちい!
不味いことになったな!」

やはりアーレンは裏と繋がった人間なのですね。
それにこの男、ダグラスをコーラル家人間と知らなかったようです。
そうなると、ダグラスをつけていたのではなく、ダクラスをつけていた者をつけてここを探り当てたことになります。
デイヴィッドともあろう者が、このような者の尾行を許すはずがありません。
少なくとももう一つは別のグループがいますね。
時間稼ぎをすれば危地から逃れられるかもしれません。

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