「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集5

克全

第8話

「お急ぎください、お嬢様」

「私は大丈夫ですが、オリビアは無理していませんか?
もう歳なのですから、無理をしてはいけませんよ」

「年寄り扱いしないでください。
私はまだまだ元気です」

私とオリビアは、戯れ合うように小さな声で話します。
正直不安で一杯なのです。
オウエンが私の側を離れなければいけない状態なんて、これが初めてです。
しかも相手は六竜騎士の一人、ハンター男爵デイヴィッドです。
オウエンが傷つく姿を思い浮かべてしまうのです。

「ノヴァ様!
僕が先を歩きます。
荷物も僕が持ちます?」

本当に困った子です。
ダグラスが無理矢理ついてきてしまいました。
少しでも早く逃げ出さなければいけないので、止める事もできませんでした。
ですが大切な逃走物資を預けるわけにはいきません。

「お嬢様も私も大丈夫です。
それよりも先を行ってください。
本当にお嬢様を大切に思うのなら、できるだけ先に行って、敵が潜んでいないか探ってきてください。
誰かいれば、大声で知らせてください」

「分かりました!
きっと役に立ちます!」

オリビアがダグラスを囮にしました。
私も止める気になりません。
父親の言う事を聞かず、私の居場所をハンター男爵に知らせるような真似をしたのですから、それ相応の罰は受けなければいけません。

いえ、それは建前ですね。
ダグラスの行為がオウエンを危地に陥らせたのが許せないのです。
ようやく主従の関係が薄まり、私を一人の女としてみてくれそうだったのです。
それなのに、こんなところで別れ別れになってしまいました。
もしかしたら、これが今生の別れになってしまうかもしれないのです。
恐怖感で押し潰されそうです。
全ては考えなしのダグラスの責任です。

今迄は少々の無礼や愚かしさも、子供の初恋と笑って許すことができていました。
でも、今はもう許せません。
身勝手かもしれませんが、一瞬で許せなくなりました。
オウエンの命を危険にさらす行為は、絶対に許せません。
本当は私が命じなければいけないのですが、私の名誉を護るためにオリビアが命令をして、恩人の子供を死地に追いやるという、泥をかぶってくれました。

「ありがとう、オリビア。
本当は私が命じなければいけないのに。
私は卑怯ですね」

「いいえ、これは母親の役目ですよ。
どこの世界に娘に泥をかぶらせる母親がいますか。
何も気にしなくてもいいのですよ、ノヴァ。
私達は親子なのですよ。
貴女は私の娘なのです。
もっと素直に甘えなさい、ノヴァ」

「ありがとう、お母さん。
私は幸せ者です」


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