「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集5

克全

第7話

私は身振りで、地下道を使う準備を乳母のオリビアに送りました。
この薬店は、元は盗賊のアジトで、逃走用の地下道があるのです。
このような店を持っているなんて、アーレンはとても怪しいです。
息子のダグラスは普通の若者ですが、アーレンが普通の商人だとは、とても思えないですね。

「イーサン王太子が廃嫡されることはない。
でもアメリアは婚約破棄され、私が再び婚約者にされる。
これがグラント公爵家を除いた四大公爵家の考えですね」

「さようでございます」

私の質問に、ハンター男爵デイヴィッドが答えてくれます。
普通にこれだけ聞けば、元に戻っただけのように聞こえますが、違いますね。
父も他の公爵家当主も、そんな甘い人間ではありません。

「でもイーサン王太子は幽閉されるのではありませんか。
廃嫡にしないし殺しもしなけれど、死ぬまで幽閉される。
王位に就くかもしれないけれど、病弱を理由に政務は宰相に任せる。
私を幽閉されるイーサン王太子のオモチャにすることを条件に、父が宰相につくことにシャノン公爵家とボイル公爵家が同意したのではありませんか?」

「さすがお嬢様。
ご名答でございます。
ですがそれだけではありません。
ご尊父にも情があるのでしょう。
イーサン王太子とお嬢様の間に生まれた御子を、王太孫にする事を、他の公爵家に認めさせています」

「なにが情ですか!
お嬢様はゴードン公爵のオモチャではないのですよ!
あのようね下劣なモノと一緒に塔に幽閉するなど、ぜったに許せません!」

オリビアが激怒してくれます。
守護騎士だったオウエンの闘志が、私にもわかるくらい激しくなっています。

「デイヴィッド。
お前はこれがお嬢様の幸せになると、本気で思っているのか?」

「お嬢様は間違いなく不幸になるだろうね。
でもお嬢様のお子様はいずれ国王となられる。
そしてゴードン公爵家にも大きな利益になる。
ゴードン公爵家の寄騎貴族の私が、どちらを取るかは分かるだろ?」

「だったら死ね!」

オウエンが大きく叫ぶと、デイヴィッドに必殺の突きを放ちます。
並の騎士なら、一合も打ち合う事もできず、突き殺されている事でしょう。
ですが、たぶん、デイヴィッドは受け切っているでしょうね。
いえ、もしかしたら、突きを避けて表に出ているかもしれません。

何故もしかしたらなのかといえば、オリビアと私は勝負の成り行きを確認せず、急いで地下道に入って逃走したからです。
敵が弱ければ、オウエンは皆殺しにしてから追いかけててくれるでしょう。
敵が適度に強ければ、時間稼ぎをしてから追いかけてきてくれるでしょう。
敵が強敵なら、死を賭して時間稼ぎをしてくれます。
果たしてデイヴィッドは、本気でオウエンを殺そうとするでしょうか?




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