「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集5

克全

第29話

「各国の特使の方々。
我らが敬愛するカチュア様の力を見ていただく」

なぜこんなことになったのでしょうか?
私には全く分かりません。
これはルーカスの謀略でしょうか?
ウィリアムが考えたことでしょうか?

「さあ、カチュア様の防御魔法で邪竜を包み込んでください。
それで邪竜は身動きできなくなります」

私はいつから邪竜を抑え込むような魔法が使えるようになったのでしょうか?
それとも、私が発動したように見せかけて、デービッドが私の動きに合わせて、陰からやっているのでしょうか?
少なくともはっきりしているのは、ルーカス様たちが各国の特使を欺瞞しようとしている事です。

各国はなんとしてもルーカス様たちとつながりを持とうと、いえ、せめて怒らせないようにと、選び抜いた王族か重臣を特別大使として送り込んできました。
彼らは本国に戻っても大きな発言力を持っています。
表向きは私が強大な力を持っていることにしていますが、私は愛息ロディーを抱いていますから、ロディーが力ある者である可能性も考えるでしょう。
なんといってもロディーは、邪竜退治の英雄エイデンの子供なのですから。
当然私とロディーが操り人形である可能性も、推測するはずです。

「聖なる加護をもって邪竜を封じよ!」

私は呪文のような演技の言葉を叫びます。
とても恥ずかしいです。
顔から火がでそうなくらい恥ずかしいです。
こんな恥ずかしい言葉を叫ばなくても、防御魔法は発現させられます。
なのに、特使を騙すために言わなければいけないのです。

「おお!」
「凄いぞ!」
「邪竜が動きを止めたぞ!」
「うううむ、斃せなくても封印するという方法があるか?」
「だがそれには莫大な魔力が必要だぞ?」
「国中の魔術師を総動員して、大規模な儀式魔法を二十四時間続けられるか?」
「むりだ、それだけの魔術師はそろえられん」
「それにその間に隣国に侵攻されたらどうにもならんぞ」
「いや、邪竜に襲われている国に攻め込むバカはおるまい」

各国の大使が好き勝手なことを言っています。
また邪竜が現れた時の対策を考えているようです。
二度あることは三度あるといいます。
邪竜が三度現れた時の対応を準備しないバカな国はないでしょうからね。

「カチュア様。
邪竜の首の部分だけ防御魔法をといてください」

私はルーカス様の指示に従って防御魔法を一部を解除します。
この後は一方的でした。
ルーカス様たちが確実に邪竜の首の攻撃を当て、少しずつ首を削っていきます。
そしてついに、邪竜の首を断ち、退治されたのです。
この時点で、私の女王戴冠が決まりました。
ロディーは王太子になるのですね……

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