「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集5

克全

第23話第三者視点

エイデンは狂気で正常な判断力を失っていた。
自分が全盛時の二割しか力を発揮できないのも忘れていた。
国王や有力貴族への配慮も忘れていた。
覚えていたの、邪竜を斃したら侯爵に陞爵され、王女を妻にできる事。
それだけだった。

そして同時に、その虚栄心は肥大していた。
すでに一度邪竜を退治している自分は、大軍を指揮すべきだと考えていた。
王都駐屯騎士団全員を自分の配下だと思い込み、邪竜退治出陣を命じた。
有力貴族を含めた全貴族に、諸侯軍の出陣を命じた。

エイデンの中では、栄光の時が鮮明に残っていたのだ。
国王と貴族たちが、自分たちが邪竜から逃げ回っていたのを糊塗するために、邪竜を斃した勝利のパレードに、英雄たちだけでなく、王家直属の騎士団と徒士団、諸侯軍が参加して栄誉をかすめ取っていた。
狂気に落ちているエイデンは、その軍が指揮下の軍勢だったことになっていた。
エイデンにはその栄光の瞬間こそが全てだった。
今回の出陣も同じようにすべきだと思い込んでいた。

国王は止めなかった。
密偵から今のエイデンの状況を聞いていた国王は、邪魔すれば殺されると悟っていたので、エイデンの好きにさせることにしたのだ。
だが、そんな判断ができないバカな貴族もいた。
妻に殴られて失禁したという、自分たちに都合のいい情報だけを信じて、エイデンの強さを低く評価し過ぎていた。

エイデンの命令を拒否して、諸侯軍の出陣を拒否した貴族がいた。
拒否とまでの露骨な対応はしなかったが、病気により参陣できないと断る貴族もいたが、それはあまりに怖いもの知らずだった。
狂気の囚われたエイデンを暴走させるの十分な理由だった。
参陣を拒んだ貴族たちは、抗命罪で皆殺しにされた。
貴族家の一族一門だけでなく、王都屋敷にいた家臣使用人まで全員惨殺された。

最初エイデンは、邪竜討伐軍大将軍として、出陣を拒否した貴族家を攻撃するように配下の騎士団・徒士団・諸侯軍に命じた。
だがその命令に戸惑った騎士団長の一人が、やめるように諌言した。
今のエイデンに諌言を聞く心の余裕などない。
諌言した騎士団長を一撃で殴り殺すと、ただ一人逆らった貴族の屋敷に乗り込み、皆殺しの残虐行為におよんだ。

次に抗命罪の貴族家皆殺しをエイデンに命じられた時、逆らう者も諌言する者も、誰一人いなかった。
誰だって命は惜しいのだ。
狂人に逆らって理不尽に殺されたくはないのだ。
王都では貴族同士のの殺し合いが始まった。

いや、その表現は間違いだ。
一方的な虐殺と逃亡が始まった。
理不尽な貴族から身を護らなければいけない平民の情報網は、驚くほど早い。
出陣命令を拒んだ貴族家からは、蜘蛛の子を散らすように家臣と使用人が逃げ出したが、使用人はともかく譜代の家臣まで貴族を見捨てて逃げるのだ。

多くの貴族家が皆殺しにされ、ようやく邪竜討伐軍が出陣した。



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