「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集5

克全

第20話第三者視点

「英雄様!
伯爵閣下!
大変でございます!
王家から使者が参っております!」

「何を慌てている?
いつもの事ではないか。
それに私は病だと言っているであろう!
邪竜退治の時の古傷が痛み、ベッドから一歩も出れないのだ。
そう申しておけ」

エイデンを起こそうと寝室に来た家臣が腹の中で吐き捨てた。
毎日毎晩メイドをベットに引っ張り込んでおいて、邪竜退治の古傷なんてよく言えるものだと。
だが実際にはそんな事を口にはできない。
家臣たちからも失禁英雄と陰口を叩かれてはいるが、それでも邪竜退治の英雄には違いなく、家臣たちを不敬罪で殺す事など簡単なのだ。

「しかし今はそのような事を言っている場合ではありません。
その邪竜がまた現れたのです。
南の大魔境から、また邪竜が出てきたのです」

「なんだと?!
邪竜は俺様が退治したのだ!
遺体も王家に献上したではないか!
もう現れることなどないわ!」

家臣は心底呆れていた。
簡単な話ではないかと思っていた。
単に別の個体が大魔境から出てきただけの事だ。
邪竜は一頭だけでなく二頭いた。
いや、まだまだ大魔境には邪竜が数多くいる。
バカでも子供でも分かることだ。
だがそう言って罵るわけにもいかない。

「英雄様が退治してくださった邪竜以外にも邪竜がいた。
国王陛下はそうお考えのようでございます。
大変な事が起きた。
我が国だけではなく、大陸を破滅させかねない、未曾有の大問題だとお考えだと、王家からの使者が申されておられます。
名誉の負傷で寝込んでいるところを悪いが、ここは曲げて王宮に来るようにと、国王陛下からの勅命だそうです」

「無理だ!
絶対に無理だ!
私は言葉を話すのにも苦労している。
そう王家の使者には伝えておけ!」

家臣はまた激しく失禁英雄の事を内心で罵った。
言葉に出せば確実に殺されるようなことを、繰り返し心の中で思った。
だが実際に口に出したのは、内心を隠した内容だった。

「しかしながら英雄様。
このままでは他の貴族の方々のように莫大な罰金を命じられます。
それでなくても借金で首が回らない状態でございます。
いえ、このままでは不敬罪抗命罪で罰せられてしまいます。
英雄様を物理的に罰することができる者など、この国には存在しないでしょうが、爵位を剥奪されるかもしれません。
英雄様は伯爵位を失って平民で生きていかれる覚悟なのですか?」

エイデンは慌てた。
エイデンにとって爵位はとても大切なモノだった。
虚栄心と承認欲求がとても高いエイデンは、渋々王家の使者と共に王宮に向かったが、その間に家臣たちは屋敷の金目の物を全て盗んで王都から逃げ出した。

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