「ざまぁ」「婚約破棄」短編集2巻

克全

第4話

「これよりサヴィル子爵家令嬢ジュリアとコータウン伯爵家令息ドミニクの決闘を開始する!
二人と代闘人は前に出よ!」

決闘の開始を宣言されたジャスパー王太子殿下の言葉を受けて、私は恐々前にでようとしました。
ですが、足がガクガク震えて、最初の一歩がでません。
あまりの情けなさに、目の前が真っ暗になります。
これでも護身術は学んでいたのです。
貴族令嬢として、最悪の時は自ら剣を持って戦う覚悟でした。
でも、学んだことが何の役にも立っていません。

思わず対面にいるドミニクを探していました。
自分より惨めな人間を探してしまったのです。
そんな自分に嫌気がさします。
自分の本性が、こんな卑怯卑劣な性格だったのだと、愕然となりました。

ですがお陰で、自分より惰弱な人間を見つけることができました。
ドミニクが闘技場の地面に座り込んでいます。
私は震えながらもなんとか立っていますが、ドミニクは立てないでいます。
私は目の前が不意に明るくなりました!
足の震えがなくなりました!
私は平常心を取り戻したのです!

「おい、俺に勝てると思っているのか?
今のうちに謝れや。
そうしたら命だけは助けてやるよ。
依頼人からも、できれば殺さずにすませろと言われているからな。
感謝しろや」

ああ、バカなのでしょうか?
それとも、なにか隠し玉でも持っているのでしょうか?
王国騎士団最強と称えられている兄上が相手のなのですが?
怪力無双と評され、王国騎士の誰一人力勝負で勝てないのが兄上です。
その評判は町場でも広がっているはずなのですが?

「おい、こら、ボケ!
なに黙ってやがる?!
俺様をバカにしてるのか?
この国最強の剣闘士と称えられている俺様に勝てるとでも思っているのか?
ああ、もうやめだ!
もう手加減はなしだ!
女子供だって容赦せんからな!
タップリいたぶってから殺してやるよ、お貴族様のお嬢様!」

「はじめ!」

あ、始まってしまいました!
拡声の魔道具を使っておられる王太子殿下が、兄上の暴走を予測して、慌てて開始の合図をだされました。
私の事を揶揄されて、兄上が激高するだろうことを、殿下は予測されたのです。

そしてその通りになりました。
兄上はいっさいの躊躇をせずに、最強の剣闘士を自称する代闘人に、強大な長巻きを叩きつけられました。
全て鋼鉄で造られた、他の誰も持ち上げる事すらできない重すぎる武器です。
それを軽々と振るわれる兄上は、妹の私から見ても人間離れされています。

兄上の長巻を大剣でギリギリで受けた代闘人ですが、大剣を砕かれ鎧を粉砕され、中の身体さえも上下に両断されてしまいました。
兄上は止まることなく前に進み、座り込んでいるドミニクを、上から長巻で叩き斬られました。
ドミニクは高価な板金鎧ごと叩き潰され、肉の塊になってしまいました。
生身の肉体が潰されるのを正視しなくて幸いでしたが、屑鉄と化した鎧の中身を想像してしまい、その場で嘔吐してしまいました……

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