「ざまぁ」「婚約破棄」短編集2巻

克全

第4話

「ガイア様、心配いたしました。
御加減はいかがですか?」

ニコーレが私に探るような視線を送ってきます。
ニコーレが御姉様を殺した犯人かもしれません。
少なくとも容疑者の一人なのは間違いありません。

「御心配していただいてありがとうございます。
あまりに怖かったのか、記憶がなくなってしまっているのです。
もしかしたら、父上の秘術の弊害かもしれません。
仮死状態の人間を治療するような非常識な魔法ですもの」

「まぁ!
そのような魔法がございますの?
わたくし初めて聞きましたわ!」

「本当は秘密なのですけれど、ニコーレ様は私の従姉ですから、打ち明けさせていただきます。
それにわたくしが色々と疑われているのも耳にしております。
身内にだけは真実を話していいと、父上から言われましたの」

腹立たしい!
御姉様を殺したかもしれない相手に、おもねるような話し方をしなければいけないなんて、はらわたが煮えくり返るような怒りを感じます!
ですが、本当の犯人を見つけないといけません。
どうせ殺すのですが、殺すのは全てを話してもらってからです。

「まあ、まあ、まぁ、そうでしたの。
でも叔母様からは何もお聞きしなかったのですが?」

エンマですか。
いちおう母という事になっている女ですが、今頃愛人と乳繰り合っているのでしょう、淫乱強欲、冷酷残忍な人非人です。
御姉様や私よりも、兄でありルディーニ公爵家の当主であるジューリオの娘、ニコーレの方を愛した女です。

「母上はわたくしの事はあまり興味がないようですよ。
それにモンタギュー公爵家の事は父上が決められますから」

「そうなのですね」

不服そうな顔をしています。
底の知れた女です。
付け焼刃でしかない私にさえ表情を読まれる愚か者です。
もっとも私は自分に魔法をかけて底上げしていますから、比較するのは無理がありますね。

本当はこの女に直接魔法をかけたいのですが、対魔法の装飾品を身に着けているので、迂闊なことはできません。
側近の人間が眼を光らせているので、その眼をかいくぐるのも難しいです。
屋敷に戻った後で襲う方法もありますが、警戒は厳重でしょうね。
正体がばれない方法があればいいのですが……

「ガイア様、そろそろお時間でございます。
これ以上は御身体に触ります。
申し訳ありませんがニコーレ様、今回の御見舞いも、奥方様の強い要望で特別に旦那様が許可されたものでございます。
どうかガイア様の御身体に配慮してくださいませ」

グレタがニコーレを脅かしています。
私に負担をかけて殺そうとしているのかと。
これ以上時間稼ぎをするようなら、モンタギュー公爵家を乗っ取ろうと、体調の悪い私に負担をかけて殺そうとしたと、社交界に噂を流すと暗に言っているのです。

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