魔法武士・種子島時堯

克全

第267話月山富田城始末

1547年5月:出雲月山富田城の付城:種子島権大納言時堯・尼子三郎四郎・宇山飛騨守久兼

「この度は大変であったな飛騨守」

「はっ」

「それでどうする?」

「ひとえに権大納言様の御慈悲に縋りたいと」

「だがな、大内殿の手前、出雲にも石見にも城地を与えることは出来んぞ」

「三郎四郎様を、権大納言様の家臣の列に御加え頂けないでしょうか?」

「大内殿の手前、武家として取り立てるのは難しい。公家としてなら、500石程度で家名を残すことは出来るが」

「そこを何とか御慈悲を持ちまして、武家としての尼子家残していただけませんでしょうか?」

「六衛府で武芸の試験を受けるのなら、その実力に応じて扶持を与えることは出来る。だがな飛騨守、今の三郎四郎殿に扶持を勝ち取るだけの武勇が有るのかな?」

「我ら家臣一同がうち揃って試験を受けて、主君・三郎四郎様の扶持を勝ち取る訳にはいきませんでしょうか?」

「そこまで忠誠を尽す者が幾人いるだろうか? どうせ六衛府の武芸試験を受けるなら、尼子家に仕える陪臣よりは、種子島家の直臣として仕える事を望むのではないか?」

「確かに今回の尼子家一門内の争いで、尼子家への忠誠よりも自家の存続繁栄を望む国衆・地侍が大半でございましょう。ですが中には尼子家に最後まで忠誠を尽す者もおります」

「飛騨守殿のようにかな?」

「私などさしたる者ではございません」

宇山飛騨守久兼は謙遜しているが、今回の月山富田城での結果から言えば、飛騨守の忠誠は称賛に値するものだった。

前回の大内義隆の攻撃は見事に撃退した尼子勢ではあるが、今回の俺の攻撃には手も足もでなかった。内部矛盾と反目が噴出し、味方同士で相争う事になっていた。

元々本家である尼子晴久と、尼子新宮党を率いる尼子国久の2頭政治と言う状況であった。武力馬鹿であった国久に、尼子本家を滅ぼしてまで当主になる気があったのか、今では分からない事だ。だが武力を優先するあまり、度々晴久の当主権限を犯していたのは紛れもない事実だ。

問題は国久の嫡男・誠久に、本家を滅ぼし自分が尼子家の当主になる野望があった事だ。それは今回に一連の行動で明らかだが、そこに新宮党の当主争いが加わり、国久の次男・豊久と三男・敬久が加わる。

また尼子家家老職同士の権力争いまで加わり、月山富田城内部で熾烈な内部抗争があったのだ。

最初に動いたのは誠久で、晴久派の国衆・地侍を無理に城外に討って出さそうとした。国衆・地侍が拒否すると、散々臆病者と罵り武士としての面目を立てる為に出陣せねばならぬように追い込んだ。結果として彼らは種子島家鉄砲隊の餌食となり、無駄死にをすることになった。

ここで新宮党当主に野心がある豊久と敬久が、誠久による謀叛を晴久に告げた事で事態が更に動き、籠城中の非常時ではあるが、晴久による誠久討伐が実行された。

最初の約束では誠久は誅殺するが、国久は隠居で助命、豊久が新宮党当主となり敬久が新地を与えられると言う条件であった。城1つ残るだけの尼子家で、このような条件など意味がないのだが、先に大内義隆を破った事でまだまだ希望を持っていたのだろう。

新宮党が2つに割れたことで、晴久は誠久を誅殺し国久を捕らえる事に成功した。ここで止めておけばよかったのだが、ここで晴久側近の奉行衆が悪魔の囁きをしてしまった。今の内に国久・豊久・敬久を殺し新宮党を滅ぼせは、晴久様の当主権限が確立されると。そしてそれに晴久は同意してしまい、半減した新宮党を攻め立て国久・豊久・敬久殺そうとした。

だがこれを知った経久からの家老達が危機感を覚えたのだ。

新宮党が滅ぼされたあとは、新参の側近奉行衆の讒言で、自分達古参の忠臣が滅ぼされると恐れ、国久・豊久・敬久に味方する者が現れたのだ。これにより月山富田城内での内部抗争が激化してしまった。

だがこれを見ていた中立の国衆・地侍が尼子家に愛想を尽かし、城門を空けて逃げ出し、種子島家に次々と降伏臣従してしまったのだ。

このとき俺は政務に忙しく、攻城戦の指揮を配下に任せていたのだが、総指揮官は無理に突入して味方に損害を出す必要なしと考え、尼子家の内部抗争に介入しないと決断したそうだ。この決断が功をそうし、晴久・国久・豊久・敬久などの戦える尼子家の成人男子が死に絶え、幼い子供しか残らなかった。

ここで晴久にも新宮党にも加担せず、城から逃げ出すこともせず、愚直ともいえるほどの忠誠心で城壁と城門を護りきったのが宇山飛騨守久兼だった。飛騨守は最後の最後まで残った忠臣を指揮し、生き残った晴久の子供と国久の孫を護り、種子島家攻城軍総司令官に降伏の使者を送ってきた。

飛騨守は種子島家が攻勢に出たら、どう足掻いても城を守りきれない事を理解していたのだろう。華々しく武名を残す為に討ち死にする事よりも、主家の家名と血筋を残す事を優先した。この忠誠心を無下に扱う事はできない。条件は厳しくなるだろうが、尼子家は残してやらねばならぬ。そうする事で、生き残った尼子家縁の国衆・地侍の忠誠心を得る事ができるだろう。

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