魔法武士・種子島時堯

克全

第263話出雲国始末1

1547年3月

「権大納言様、家臣の列に加えては頂けないでしょうか?」

「ならぬ! 尼子と大内に挟まれた国衆の苦しみが分からない訳ではないが、それにしても今回の裏切りは許し難い」

「そうは申されますが、負ける側についた国衆は城地を奪われるだけではございません。婦女子は乱暴されてしまいます、命を奪われなくとも散々もてあそばれて、奴隷として売り払われてしまいます。一族一門も当主となれば、彼らを守る責任がございます」

「それは理解しておる、だがそれを認めれば、どの大名も家臣を統制することは出来ぬ。それにそもそも、その命懸けの奉公を約束することで領地を安堵されているのあろう。危機の時にその恩に報いぬような者は武士とは言えぬし、城地を預ける価値はない」

「それは・・・・・」

「命までとるとは言わぬ、私財の没収もせぬ、どこの誰に仕えようとも構わぬ、好きに逃げるがよかろう」

「三郎左衛門殿、権大納言様は御忙しいのだ、仕官の願いなら担当の者にされよ!」

宮庄経友が秋上綱平を俺の前から追い払ってくれた。

今回恥知らずに寝返った尼子の家臣は僅かだった。秋上綱平以外には、有力どころでは河本隆政・古志吉信・三刀屋久扶程度だ。まあそれ以前に、大内義隆が月山富田城に攻め寄せた時に、赤穴光清・宍道隆慶・多賀元龍・米原綱寛などが裏切っている。

だが赤穴光清たちは恥を知っており、尼子家に再度寝返る事無く、大内義隆に付き従って周防まで逃げている。もっとも、再度寝返っても尼子晴久に許されず、殺されると判断してのことかもしれないが。

それに比べると河本隆政たちの行いは見苦しく汚い、俺としたら直臣の列に加える気にはならない。今頃は俺の内意を受けた種子島家譜代衆が、陪臣として召し抱える話をしているはずだ。むざむざ何れ攻め込む他家に仕官させることもないのだが、陪臣として仕えるのを潔しとせず、他家に向かうくらい誇り高いのなら、それはそれで尊重してやるべきだろう。

他の多くの尼子家譜代衆が、忠誠を尽して月山富田城に籠城している。他国で与えられた多くの城地を失い、月山富田城に逃げ込んだが、それでも半知を確保すべく種子島家に降伏臣従した者達よりは立派だ。

月山富田城に入った尼子方国衆も、多くの領民・足軽・雑兵・地侍が、種子島領に逃げ出したリ降伏臣従していた。領地の年貢を徴収することも出来なくなり、兵力も激減して戦闘力も僅かに残った一族一門だけしかない。

大内義隆が攻め込んで来た時とは比べようもない最悪の状況なのに、それでも尼子家に忠誠を尽そうとしている。軍資金や兵糧が乏しい尼子晴久の為に、この苦しい状況下で私財をなげうって兵糧を買い集める国衆すらいる。彼らをむざむざ殺すのはあまりにもったいないから、尼子家への対応は注意する必要がある。決断を下すまでは、十重二十重と囲んでおこう。

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