魔法武士・種子島時堯
第109話お成り正月料理
1540年1月『京・九条屋敷』種子島大弐時堯・12歳
「禅定太閤殿下、とても光栄な事だと言うのは重々承知しておるのですが、こう毎日毎日御上がお成り下さいますと、料理に出す品がなくなってしまします」
「どう言う事でおじゃるか? 大宰府にいた時も京に戻って来てからも、1度も食材に困っことはないでおじゃろう?」
「いえそれは大丈夫でございます、銭に糸目をつけなければ京でも大概の食材は手に入りますし、何より私自身が幾らでも食材を集め運ぶ事が出来ます。問題はどのような料理を出すにしても、毎日3食となるとお品が重なってしまうのでございます」
そのようなことでおじゃったか、そのような心配は無用でおじゃる」
「どういう意味でございますか?」
「御上(天皇陛下)も麿同様に日々の生活に困っておられたでおじゃる。雪見の宴を開こうとしたのに、酒がなく単なる雪見に終わったというせつないこともおじゃった。宸筆(しんぴつ)(天皇直筆の書)を売って日々の費えとなさってもおじゃった。されど貧しくても清廉でおじゃってな、寄付は受け取ってもワイロを受け取ることはなかったでおじゃる。塀が壊れているのに費えがなく、三条大橋の上から、大切な八咫鏡(やたのかがみ)の安置所であり、内侍が務めている内侍所が見えるような状態でおじゃった。いや、大切な儀式や行事を行なう紫宸殿の左近の橘の近辺に物売りまで出ておじゃった」
禅定太閤殿下の話を聞いていると切なくなって来るな。
「だから大弐殿が、自分からは何の見返りも求めず献金献納してくれることが嬉しいのでおじゃる」
「しかし毎年父上様や禅定太閤殿下を通して官位官職を頂いておりますが?」
「献金献納してくれる銭や物の量に比べて、求める官位官職が余りにささやかでおじゃるし、全部自分のものではないでおじゃろう? 大宰帥殿のものばかりで、自分のものは麿や朝廷が次の献金献納欲しさにこちらから勧めたものでおじゃる」
「確かにそうではございますが」
「なにより御上が喜んでおじゃったのは、大弐殿が献納してくれた勇魚(いさな)(くじら)を御上から民への下賜になされて下さいと言上した事でおじゃるよ!」
「喜んで頂けたのですね?」
「御上は常に民の安寧を願っておじゃる、そしてこの戦乱の世が終わることを願っておじゃる。だから大弐殿の献策は御上の心の琴線に触れたでおじゃるよ」
「有り難きお言葉でございます」
「だから料理の品が少なくても重なっても構わないでおじゃるよ」
「分かりました」
だがこうまで言われたら、何とか頭と身体を使って出来る限りのおもてなしがしたくなる。この世界この国この時代なら、伊達政宗が考え出したと言う正月料理を参考にメニューを考えよう。鮭やイクラは皇室でも珍重されていた記憶があるし、丹頂鶴も凄く珍重されていたはずだ、ここは蝦夷まで飛んで行ってでもそろえて見せる!
「本 膳」
1・御膾(鮭氷頭・ハタハタの卵・ほや・ふのり、輪切りみかん)
2・納豆
3・和え物(九条葱・酢味噌)
4・濃醤(赤貝)
濃醤(こくしょう)とは塩分の少ないみそを濃く溶いて魚介、鳥肉、野菜などを煮た汁気の多い煮物のこと
5・海鼠腸(このわた)
6・御汁(丹頂鶴・山芋・五分菜)
7・御飯
「二の膳」
1・伊勢海老姿塩焼き
2・鮭漬浸し(だし酒がけ)
3・煮物(鴨・ふさ菜・柚)
4・御汁(鱈・柚)
「三の膳と御」
1・御向(鮒煮こごり)
2・刺身(鯉子付・わさび・いり酒)
身をそぎ切りにして冷水にさらし、ゆでて ほぐしたふなの卵をまぶしつけたもの
3・御引菜(吉次の大板蒲鉾)
4・鮭子籠
鮭塩引(鮭の塩蔵物)を焼いて、腹に卵巣(すじこ)を詰めて作ったもの
5・いくらは水和え(するめ、くり、しょうが、大根かつら))
するめ・煎海鼠(いりこ)・干鱈などの乾物を水につけて戻し、野菜類を取り合わせ、煎酒や煎酒酢で和えたなます。
6・御汁(ハゼ・焼き餅・引菜・からとり(ズイキ)・せり・いくら)
引菜とは、大根・にんじん・ごぼう・凍み豆腐などを細くせん切りにしたものを大きな鍋でサッと湯がき、それを一晩凍らせたもの。
ハゼのだしにひき菜・からとり(ズイキ)・せり・いくら・が入っていて、最後に焼きハゼを上に乗っていたもの。
「禅定太閤殿下、とても光栄な事だと言うのは重々承知しておるのですが、こう毎日毎日御上がお成り下さいますと、料理に出す品がなくなってしまします」
「どう言う事でおじゃるか? 大宰府にいた時も京に戻って来てからも、1度も食材に困っことはないでおじゃろう?」
「いえそれは大丈夫でございます、銭に糸目をつけなければ京でも大概の食材は手に入りますし、何より私自身が幾らでも食材を集め運ぶ事が出来ます。問題はどのような料理を出すにしても、毎日3食となるとお品が重なってしまうのでございます」
そのようなことでおじゃったか、そのような心配は無用でおじゃる」
「どういう意味でございますか?」
「御上(天皇陛下)も麿同様に日々の生活に困っておられたでおじゃる。雪見の宴を開こうとしたのに、酒がなく単なる雪見に終わったというせつないこともおじゃった。宸筆(しんぴつ)(天皇直筆の書)を売って日々の費えとなさってもおじゃった。されど貧しくても清廉でおじゃってな、寄付は受け取ってもワイロを受け取ることはなかったでおじゃる。塀が壊れているのに費えがなく、三条大橋の上から、大切な八咫鏡(やたのかがみ)の安置所であり、内侍が務めている内侍所が見えるような状態でおじゃった。いや、大切な儀式や行事を行なう紫宸殿の左近の橘の近辺に物売りまで出ておじゃった」
禅定太閤殿下の話を聞いていると切なくなって来るな。
「だから大弐殿が、自分からは何の見返りも求めず献金献納してくれることが嬉しいのでおじゃる」
「しかし毎年父上様や禅定太閤殿下を通して官位官職を頂いておりますが?」
「献金献納してくれる銭や物の量に比べて、求める官位官職が余りにささやかでおじゃるし、全部自分のものではないでおじゃろう? 大宰帥殿のものばかりで、自分のものは麿や朝廷が次の献金献納欲しさにこちらから勧めたものでおじゃる」
「確かにそうではございますが」
「なにより御上が喜んでおじゃったのは、大弐殿が献納してくれた勇魚(いさな)(くじら)を御上から民への下賜になされて下さいと言上した事でおじゃるよ!」
「喜んで頂けたのですね?」
「御上は常に民の安寧を願っておじゃる、そしてこの戦乱の世が終わることを願っておじゃる。だから大弐殿の献策は御上の心の琴線に触れたでおじゃるよ」
「有り難きお言葉でございます」
「だから料理の品が少なくても重なっても構わないでおじゃるよ」
「分かりました」
だがこうまで言われたら、何とか頭と身体を使って出来る限りのおもてなしがしたくなる。この世界この国この時代なら、伊達政宗が考え出したと言う正月料理を参考にメニューを考えよう。鮭やイクラは皇室でも珍重されていた記憶があるし、丹頂鶴も凄く珍重されていたはずだ、ここは蝦夷まで飛んで行ってでもそろえて見せる!
「本 膳」
1・御膾(鮭氷頭・ハタハタの卵・ほや・ふのり、輪切りみかん)
2・納豆
3・和え物(九条葱・酢味噌)
4・濃醤(赤貝)
濃醤(こくしょう)とは塩分の少ないみそを濃く溶いて魚介、鳥肉、野菜などを煮た汁気の多い煮物のこと
5・海鼠腸(このわた)
6・御汁(丹頂鶴・山芋・五分菜)
7・御飯
「二の膳」
1・伊勢海老姿塩焼き
2・鮭漬浸し(だし酒がけ)
3・煮物(鴨・ふさ菜・柚)
4・御汁(鱈・柚)
「三の膳と御」
1・御向(鮒煮こごり)
2・刺身(鯉子付・わさび・いり酒)
身をそぎ切りにして冷水にさらし、ゆでて ほぐしたふなの卵をまぶしつけたもの
3・御引菜(吉次の大板蒲鉾)
4・鮭子籠
鮭塩引(鮭の塩蔵物)を焼いて、腹に卵巣(すじこ)を詰めて作ったもの
5・いくらは水和え(するめ、くり、しょうが、大根かつら))
するめ・煎海鼠(いりこ)・干鱈などの乾物を水につけて戻し、野菜類を取り合わせ、煎酒や煎酒酢で和えたなます。
6・御汁(ハゼ・焼き餅・引菜・からとり(ズイキ)・せり・いくら)
引菜とは、大根・にんじん・ごぼう・凍み豆腐などを細くせん切りにしたものを大きな鍋でサッと湯がき、それを一晩凍らせたもの。
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