魔法武士・種子島時堯

克全

第63話九条家の化粧料

1537年4月『大隅国・清水国分城』種子島右近衛権少将時堯・9歳

「父上様どういたしましょう?」

「早急に準備するしかあるまい」

「母上様に手伝って頂かねばなりません」

「それはどうであろうか、無理ではあるまいか?」

「どういうことでございますか?」

「島津忠興の娘だからな、一条家のような名門から嫁ぐ正室の準備は無理であろう」

「しかし母上様に奥の仕切りをお願いしなければ、種子島家の奥向きを一条家に乗っとらしまうのではありませんか?」

「元々奥向きは、嫁の実家からついてきた侍女が束ねているし、その費用も正室の化粧料から支払われる。九条禅定太閤殿下の妹姫が正室として嫁いで来られるとしても、化粧料をどうするつもりなのだろうか?」

「え~と父上様、父上様も奥の事には口出しされないのですか?」

「そうだ、そう言うものだ、もし私が側室や妾を設けたとしても、その費用は正室たるそなたの母の化粧料で雇うのだ。だから側室であろうが妾であろうが、父ではなく母の家臣となるのだ」

「つまり種子島家の正室に相応しい化粧料を持参できない家からは、正室を迎えることは出来ないのですね?」

「そうだ、土佐一条家なら正室に相応しい領地を与えて種子島家に嫁がせる事ができるが、九条家では領地を与えることなど出来んはずだ」

「父上様、それは種子島家が九条家を支援した銭で土地を買って持参するのではありませんか?」

「だが種子島家の支配領域に買える土地などあるか? ほとんどは直轄領になっているし国衆に残した土地は売りに出る可能性は少ないだろう?」

「もしかしたら種子島家の武力を背景に、豊後国や豊前国で苦しんでいる国衆から買い取る心算かも知れません。両国の国衆なら喜んで売って、その銭を元手に商人になるか畿内で傭兵家業に励むかもしれません」

「なるほどその手があるか」

「それに畿内で領地を買い、それを化粧料とすれば種子島家が上洛した時に賄い領に出来ます、そうなればいざという時に畿内で自前で兵糧を確保出来ます」

「確かにな! 九条禅定太閤殿下の名で一旦領地を買い、それを妹姫の化粧料として種子島家に持参してくれれば、畿内に種子島家の兵を常駐させる大義名分が立つな!」

「はい、あの強かな九条禅定太閤殿下ならそれくらいの絵図は書いておられると思います」

「う~む、そうなると九条家の妹姫をそなたの正室に迎える利は十分あるか?」

「父上様! これは一条本家でも出来る事でございますよ」

「なるほど、資金をこちらから出す覚悟なら幾らでもやりようはあるな!」

「はい、九条禅定太閤殿下に対抗して一条家は輿入れを急いでおられますが、ここは畿内の領地を買い取り化粧料として頂きたいので、余り急いで下さいますなとお伝え下さい」

「正室が嫁いで来るのが嫌か?」

「正室に気を使うのなど真っ平でございます!」

「まだ気鬱の性分は治らぬか?」

「父上様や母上様はともかく、弟や従兄弟たちであっても気を使ってしまいます。そうなると心が消耗して気鬱が出てしまいます」

「そなたのような神の申し子でも弱味はあるのだな、分かった出来るだけ輿入れが遅れるように交渉しよう」

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