魔法武士・種子島時堯

克全

第4話津田監物算長

「おおここにおったっか犬楠丸、そなたを訪ねて客が来ておる、橘屋には悪いが母屋に来てもらおう」

「父上様がそうまで申されるからには身分ある方のでしょう、直ぐに支度を整えまいります」

「いやそのままで十分じゃ、橘屋は後日改めて参ってくれ」

「殿様の仰せのままに」

俺は新築された自分の館から、父上様たちが住む母屋に向かって渡り廊下を歩いた。橘屋又三郎は素直に帰ったりはしないだろう。何かと理由をつけて館に居座り、誰が何のために訪ねて来たのか調べるだろう。それくらいでなければ、生き馬の目を抜くような堺で商人などできない。

「しかし父上様が自ら私を探されるなど、余程の方が訊ねて来られたのでしょうね?」

「うむ、今日来られたのは根来寺の杉ノ坊監物殿じゃ」

「杉ノ坊監物と申される方は、根来寺でも重要な方なのですか?」

「うむ、根来寺を護る四つの旗頭の中でも一、二を争うほどの強者じゃ」

寺領72万石と言われる根来寺で一二を争うなら、真っ当に四等分しても16万石以上の大名クラスと考えられる。以前の種子島家では到底太刀打ちできない有力者だ、だが今なら下手に出る必要も無い。父上様もまだ種子島家の立ち位置が変わった事に慣れておられないのだな。

父上に連れられて母屋の広間に行くと、威風堂々という言葉がピッタリの偉丈夫が端然と座っていた。これは流石に父上様でなくても圧倒されてしまうだろう。それぞれ型通りの挨拶を終えて対坐すると、監物殿が要件を切り出されてきた。

「犬楠丸殿には折り入ってお願いしたいことがあるのです」

「何事でございますか?」

「犬楠丸殿が作らさせていると言う、鉄砲の製造法を教えて頂きたいのです」

「それは無理でございます、鉄砲は種子島家の大切な産物でございます。みだりに教えて他所が作り出しては、種子島家が立ち行かなくなります」

まあこれは嘘だ。

いや嘘と言うのは正確ではない、色んなルートから鉄砲は入って来ている。鉄砲がこの世にあると分かれば、目端の利いた者は何をおいても手に入れようとするだろう。そうなれば資金さえあれば火縄銃を手に入れる事は難しくないし、明国の鳥銃や南蛮の初期火縄銃なら、手間を惜しまず明国や南方にまで直接行けば、比較的簡単に手に入れる事が出来る。

問題は火薬の調合法であり、何より日本で産出しない硝石の生産方法だ。それと俺が作らせている、改良に改良を重ねた、本来なら、まだこの世界この時代には存在しない最新式火縄銃だ。この生産法・製造法だけは絶対渡す訳にはいかない。

「確かにその通りですな、だが同時に犬楠丸殿はいろんな物を欲しがっておられるとも聞いております。それを私が手に入れて参ると申したらどうですか?」

「手に入れて下さる物によります」

「何を手に入れて来れば教えて頂けますか?」

「そうですね、南蛮には体高(肩までの高さ)は160センチメートル以上の大きな馬がいます。中には2メートルを超える化け物のような馬もいると聞いています。それを雌雄つがいで5組手に入れてくれたらお譲りたしましょう」

「それは余りに法外で要求ではありませんか?」

「そうでもありませんよ、最初に鉄砲2丁を手に入れるのに南蛮人に二千両支払っています。もちろん火薬の調合法も併せての話ですが」

「う~む、では私も二千両を支払えば教えて頂けるのですかな?」

どうする?

監物殿の眼が笑っていない、ちょっと迫力があるな、御父上様だけなら気圧されて交渉負けしていただろう。

まあ無敵の魔法強化があるから、5歳児であろうが俺なら監物殿を一捻りに出来きるのだが、並みの戦国武将では太刀打ちできない漢だな。ここは敵対するより恩を売るか即物的な利を手に入れた方がいいだろう。

「少し利を乗せて頂きたいですね」

「ふむ、だが私が南蛮人に直接交渉して、二千両以下で鉄砲と火薬の調合法を手に入れる事は考えられないのか?」

「それならそれで仕方ありません、ですがそれは我が種子島家と敵対すると言うことです」

「それは私と敵対する者に、鉄砲や火薬を優先的に売ると言うことですか?」

「そんな事はしたくないのですが、種子島家も生き残りをかけております」

「ではどうです、種子島家も水軍を整えておられるようだが、私が各地の水軍衆に顔つなぎをして差し上げようか?」

「それは村上水軍や安宅水軍に紹介して下さると言うことですか?」

「さよう、どうです?」

「二千両を支払ってもらった上で紹介していただけるなら、十二分に利がございます」

「ではそれで話がまとまりましたな」

これは助かった!

今後のこと考えれば、目先の千両二千両より海路の交易が出来る方が大きい。根来寺の紹介状があれば、比較的安全に海上交易が出来る。そうなれば色々と考えている策を実行することが出来る。ここは明国製の鳥銃のような簡素なものではなく、南蛮製初期マスケット銃3丁をつけて火薬の調合法を教えてあげよう。

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