精霊の聖女を王太子が口汚く侮辱し、婚約破棄を宣言してしまいました。

克全

第1話:妖精公爵家とは

家中の者達が忙しく立ち働いてくれています。
それをよそに、我が家に集まった王侯貴族が傍若無人に振舞っています。
とても腹立たしい事ですが、我慢しなければいけません。
決して自分で望んだ事ではありませんが、私の婚約を祝に集まったのですから。
……なにが、おめでたいモノですか!

品性下劣、女と見れば見境なく襲う色情狂!
今までどれほどの娘が純潔を汚され涙してきたことか!
本来なら側によられるのも嫌なのですが、王家のたって望みと言われれば、断り切れるものではありません。
内戦も辞さない覚悟をすれば、断る事も可能ですが、民を戦争に巻き込むのは本意ではないのです。

「姫様、こちらにおられましたか、公爵閣下がお探しでございます」

「父上がですか、何かあったのですか?」

「王家との婚約披露でございますから、綿密な打ち合わせが必要だと言われていましたから、姫様にも聞いてもらいたいのでございましょう」

本当に腹立たしく怒りが込み上げて来てしまいます。
王家はもちろん、貴族どものさもしい考えに怒りが収まりません。
王家が我が公爵家とのつながりを求めて、私を王太子の妻に迎えたいというのなら、王家が費用を負担して王都で婚約披露宴を開くべきなのです。
それを、我がオレゴン公爵家の領都で婚約披露宴を開かせ、その費用を全て負担させようとするのですから、下劣にもほどがあります!

「その心配は必要ありません。
必要な知識は精霊達が私に伝えてくれます。
向こうで相談している事は、全て私に伝わっています」

「左様でございますか、ではそのように御伝えさせていただきます」

父上の派遣した侍女が質問も反論もせずに戻っていきます。
父上が王家に煩く言われてしかたなく侍女を派遣した事は、今精霊が教えてくれましたから、当然の反応なのでしょう。
精霊も事前に教えてくれればいいのですが、基本精霊は気まぐれで、人間の思い通りには動いてくれません。

時に人間の命にかかわるような悪戯をしでかす困った存在、それが精霊なのですが、今のカリフロ王国はその精霊の助けがなければ存在できないのです。
年々砂漠に侵食されるカリフロ王国は、本来なら既に国の大半が砂漠化しているはずなのですが、精霊の寵愛を受けた精霊の聖女をようするオレゴン公爵のお陰で、なんとか地下用水路用の水を確保し、耕作が続けられているのです。

そんな事もあって、オレゴン公爵家は妖精公爵家と呼ばれています。
感謝され尊敬されて妖精公爵家と呼ぶのならいいのですが、多くの王侯貴族は、人ならざるものと忌み嫌い蔑みの意味を込めて妖精公爵家と呼ぶのです。
妖精公爵家という言葉を耳にするたびに、妖精に水を止めるように願いそうになってしまいます。

そう、オレゴン公爵家の長女である私が、妖精の聖女なのです。
王家は妖精の聖女を王太子の正妃に迎える事で、妖精の加護をオレゴン公爵から奪おうとしているのです。
本当に品性下劣で度し難い愚か者です。
そのような見え透いた考えが、父上や私は勿論、妖精に見抜かれないと思っているのですから。

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