立見家武芸帖

克全

第92話家臣15

「能美師範代、御手合わせ願います」

「おう、掛かってきなさい」

師範代を務めてくれている重太郎が大人気である。
我が仕込んだ読売で、能美兄弟の仇討ちとして江戸中で大人気になっている。
御陰で我の道場も門弟が増えたが、貧乏な下級藩士が多く、直接の金にはならないので、魚獲りを手伝わせて束脩や謝儀の代わりにしている。

そんな貧乏藩士の中には、八戸藩の下級藩士もいる。
重太郎が八戸南部家の剣術指南役に任じられたからだが、八戸藩の勝手向きは本当に厳しいようで、能美家の扶持はそれほど増えなかった。
元の家禄五十石は保証されたが、加増されたのは重太郎一代の剣術指南役としての役扶持十人扶持だけだった。

その役扶持も分掛として半分を藩に返上させられるから、実質五十俵しかもらえないので、江戸での生活はとても厳しい。
いや、重太郎とおゆき殿が親戚から聞いた話では、知行地を与えられても、毎年不作と凶作なので、ろくに年貢が手に入らないという話だった。

あまりにも悲惨な話に、大切な弟子を八戸藩任せにできなくなった。
仇討ちを手助けした事で不幸せになったなど、絶対に我慢ならない。
そこで我が八戸南部家の上屋敷に乗り込み、能美家を待遇について江戸家老と談判したが、六百人斬りと西之丸様武芸指南役の名声が役に立った。
我を邪険に扱える陪臣は存在しなかった。

能美家は八戸に帰る必要のない江戸詰め藩士とされ、自由に道場を開き門弟を集めて収入を得ていいと約束させ、後々の騒動も考え書付も出させた。。
当然、我の弟子として代稽古で行い、礼金を貰ってもいい事にした。
これで重太郎は実力で稼げることになった。

だが、今回の仇討ちでは、我が能美家を助けただけではなかった。
能美家も我に利益を与えてくれた。
幼くて麗しい能美兄弟の仇討ちを褒め称えた西ノ丸様の事も、読売が名君になるだろうと書きたて、誰かがその読売を上様にお見せしたらしい。

西ノ丸様を溺愛されてる上様は、その読売を読んで狂喜乱舞されたという。
本当かどうかは分からないが、我の家禄が三百石加増されて中奥小姓格武芸指南役五百石となったので、あながち嘘とは言えなくなってしまった。
行き成り布衣を跳び越えて諸太夫である。
本来なら屋敷も、五百石に相応しい七百五十坪に屋敷替えされるところなのだが、追手沙汰するというのが、更なる加増を匂わせており、正直恐ろしい。

五百石に加増されたら、軍役も五人から一気に十二人に増えてしまう。
若党は二人なので今のままで大丈夫だが、中間は立弓、甲冑持、槍持、馬の口取り二人、草履取、挟箱持、小荷駄二人と大増員しなければいけない。
更に軍役よりも問題なのは、このままでは御城勤めをさせられてしまう事だ。
御老中と白河公と山名のお殿様に相談して、これ以上の役目を与えられたり、加増されないようにしてもらわなければならぬ。


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