立見家武芸帖

克全

第17話姉妹遭難6

「承りました。
山名家の方々が本気で白河藩と争われると申されるのなら、こちらから申し上げる事はなにもありません」

兄上も無暗に白河藩の肩を持てなくなったようだ。
山名家と言えば、天下の六分の一を支配したと言われる、山名氏の末裔だ。
衛門尉の官位を受けられていたはずだし、屋形号を持つ交代寄合表御礼衆の一家だったはず。

当然だが、町奉行所の与力への付届けは欠かしていないはずだ。
勿論、白河藩も町奉行所の与力に付届けを送っている。
兄上のような同心では間に入る事など不可能だ。
恐らくだが、白河藩の江戸家老か用人が山名家に詫び料を支払って手打ちだろう。

兄上と甥の精一郎があとの事は取り仕切ってくれた。
野次馬達の名前と所を確かめて、後日の呼び出しを申し渡していた。
野次馬が集めてきた駕籠かきに、我が倒した渡り中間を押し込み、山名家の屋敷にまで送る事を繰り返した。

腹を槍で突いた渡り中間はいずれ死ぬから、奉行所に預けておく。
御様御用の役目を頂けたら、試し斬りの死体が必要だが、今はまだ役目を頂けるか分からないし、そもそも裏長屋には死体を置いておく場所がない。
この渡り中間も引き取り手がないだろうから、浅右衛門屋敷に引き取られて、試し斬りに使われるだろう。

「待てぇい。
我が家の中間を斬り捨てるとは何事かぁ
天下の白河藩久松松平家を何と思っているかぁあ。
我が家には将軍家御連枝を御養子に迎えることになっておるのだぞ」

馬鹿である。
国元から出てきたばかりの勤番侍で、江戸での作法を心得ていないのか。
それとも、渡り中間共から袖の下でも貰っていたのか。
こんな事を口にしたら、白河藩と言えどもただでは済まないぞ。

「それは聞き捨てなりません。
中間共も申し渡しておりましたが、我が家の姫君を拐かそうとした事、藩主越中守様の命令だと申すのですね」

「山名家」
交代寄合・但馬七美郡村岡領六七〇〇石
山名義徳:元文五年三月八日(一七四〇年四月四日)誕生
:筑後国柳河藩五代藩主の八男
栄之丞 :長男
栄   :長女
蘭   :次女
楓   :奥女中・腰元
「兄弟姉妹」
長兄:孫次郎・夭折
次兄:立花貞則(一七二五/一七四六)
三兄:立花鑑通(一七三〇/一七九八)
長姉:きせ(立花茂矩(主水)室)
四兄:巳三郎・夭折
次姉:登代(瑞泰院・毛利重就正室)
五兄:立花致傳(一七三五/一七七六)
三姉:みき(家老小野隆局(若狭)室)
七兄:戸次通孝(一七三九/一七八〇)
長弟:矢島通経
六兄:立花致真
四姉:伝姫(つて)(蜂須賀重喜正室)
五姉:まき (細川興晴正室)
次弟:立花通堅(一七四二/?)
長妹:みつ

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