立見家武芸帖

克全

第14話姉妹遭難3

騒ぎの起こっている方に視線を向けた我が眼にしたのは、二十数人の渡り中間の差し上げられている二人の娘だった。
我は反射的にそちらの方に駆け出していた。
駆け出しながら状況を確認していた。

「旦那。
藤七郎の旦那。
何を慌てておられるんですか」

丁度我に話しかけようとしていた、伊之助が声をかけてくるが、返事をする暇も惜しいのだ。
まだ幼いともいえるような、年端もいかない武家娘が攫われようとしている。
渡り中間共の猥雑な顔を見れば、どういう目的か直ぐに分かる。
倒れている腰元と護衛の若党に駕籠かき中間。

我が助けなければ、二十数人の渡り中間に代わる代わる凌辱されるのは明白。
嫁入り前に幼い娘がそんな目に会ったら、乱心するが自害するかしかない。
旗本であろうと大名であろうと、家名を恥じて事件を公に出来なくなる。
そこまで考えての悪事だと、一瞬で分かる。

あまりの怒りに、逆に冷静になる。
幼き頃に槍一筋に武芸者になると決めて以来、常在戦場の気持ちで生きてきた。
だから、事に望んで怒りに我を忘れないように己を戒めてきた。
そのお陰で冷静ではあるが、腹の中の怒りは深く静かだが激しい。
常に用意してある紐を使って襷掛けし、着物の裾を尻を端折る。

「動くな、下郎」

裂帛に気合で機先を制して動けなくする。

「白昼堂々婦女子を拐かすとは許しがたい。
どこの家中であろうと問答無用。
無礼討ちにしてくれる」

恐らく大家に雇われて気が大きくなっているのであろう。
だが、今の言葉で、例え相手が紀州様でも尾州様でも、横車は押せなくなる。
家中の中間が、旗本の姫君を拐かそうとしたとなったら、家名に傷がつくどころではない。
紀州様でも尾州様でも、江戸家老や用人が切腹して詫びるほどの不祥事だ。
外様や小藩ならお家取り潰しも覚悟することになる。

我は渡り中間共が動けなくなっているうちに、一人の姫君を先に助けた。
姫君を差し上げたまま固まっている渡り中間の脚を、槍で叩いて骨を砕き、更には両手を槍から離すために、渡り中間の腹に槍を刺し、落とされそうになった姫君を抱きとめた。

「ご無事ですか、姫君。
伊之助。
姫君を任せたぞ」

慌てて追いかけてきた伊之助に姫君を預け、もう一人の姫君を助けるべく、次の十数人に向かう。

「無礼討ちだ、無礼討ちだ、無礼討ちだぁあ。
百人斬りの立見藤七郎様の無礼討ちだぁあ。
邪魔するじゃねえぞ。
誰も手出しするんじゃねえぞ。
誰も逃がすんじゃねえぞ」

伊之助の馬鹿が、また話を大きくしようといている。
困った奴だが、これで渡り中間を逃がさないようにできるのなら、それもよしか。

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