第1話：悪役令嬢など御免被ります。

私はレイラ・ダンセルと申します。
こう見えて公爵家の次女、公爵令嬢で、王太子の婚約者です。
でも、いずれ悪役令嬢として断罪されてしまいます。
そう、ここは私がやった事のある乙女ゲームの世界なのです。
いえ、もしかしたら、乙女ゲームの世界が本当にあって、その世界と無意識につながった人が、ゲームとして作ったのかもしれません。

「レイラ様、どうなされたのですか？」

「いえ、何もしませんよ、少し考え事をしていただけです」

「まあ、ロレンス王太子殿下の事をお考えになっていたのですか？」

取り巻きの貴族令嬢達が色々と煩いです。
私が公爵家の令嬢で王太子の婚約者だから、将来の事を考えて、学園に通っているうちに親しくなろうと考えている、下位貴族の令嬢が多いのです。
彼女達も生きていくのに必死なので、邪険にする事もできません。
ですが、しっかりと統制しておかないと、暴走してヒロインを虐めてしまいます。

「いいえ、私は領地に事を考えていたのです。
どうすれば少しでも領民の生活を豊かにできる、そればかり考えているのですよ」

取り巻きの令嬢達が、呆れた眼つきをしています。
彼女達も年若いとはいえ貴族の令嬢ですから、上位貴族の私に呆れた表情を見せたりはしませんが、私は相手の気持ちを読むのが得意な元日本人ですから分かります。
まあ、正直に言えば、これは彼女達を誤魔化すための言葉です。
上位貴族の私も、下位貴族に表情を読まれるわけにはいきません。
読まれてしまったら、いいように操られてしまいますから。
私が考えていたのは、大好きな守護騎士、カルスの事です。

「それよりお聞きになられました、レイラ様。
庶民の中から光の聖女が現れたという話ですよ」

ええ、知っていますとも、ゲームの中で私が嫉妬に狂って虐めるヒロインです。
ですが、私は王太子よりもカルスの事が大好きなのです。
マイナー趣味だとよく言われましたが、光る輝くような美形よりも、普通の容姿で忠誠を尽くす、堅実なＮＰＣ（ノンプレイヤーキャラクター）に心惹かれるのです。
なんといっても、悪行を重ねて断罪される悪役令嬢に忠誠を尽くし、殉死するようなキャラクターは滅多にいません。
少々キャラクターデザインが雑でも構わないのです。

「その話はわたくしも聞きました、庶民のくせに生意気ですわ」

取り巻きの令嬢達が好き勝手にヒロインを罵っています。
「生意気なのはお前らだよ、何も生みださない役立たず共が」と心の中で思ってしまいますが、決して口には出しません。
もしかしたら、ゲーム制作者によって、勝手に性格を決められてしまった、可哀想な子達かもしれないのですから。

「そのような事を言ってはいけませんよ。
光の聖女は、神がこの国に与えてくださった奇跡の存在なのかもしれないのです。
悪しざまに罵っては、天罰が下るかもしれませんよ！」