第1話：定番異世界転移

手垢のごっそりとついた定番の異世界転移をした。
ダンプに轢かれそうになっていた子供を助けようとして、死んだのだと思う。
見も知らぬこの場所に来る前の最後の記憶は、迫りくるダンプだった。
異世界転移する時は、神様から懇切丁寧な説明があるはずなのだがな。
神様の説明がないという事は、これが病院のベットで昏睡状態となっている俺が見ている夢という可能性が高い。

「貴様何者だ、ポーレット侯爵家の手の者か！？」

俺はいきなり眼の前に現れた騎乗の美女に魂を持っていかれた。
革鎧と思われる装備に身を包む神々しいまでの美貌の女性。
大好きだった小説の表紙に描かれていた美女そっくりだ。
小説の中ではエルフという設定で金髪だったが、眼の前の女性の髪は輝くような蒼で、肌は透き通るような白色をしている。
残念ながら、耳はエルフ耳ではなく人間の耳で、瞳は黒檀のような黒だ。

「何も言わないという事は、ポーレット侯爵家の手先だと認めるのだな！？」

凄く神経を張り詰めてピリピリしているようだ。
わずかな情報から分かる事は、この美女とポーレット侯爵家が敵対しているという事だが、この世界の常識が分からないから何を言うのが正解なのか分からない。
だが、日本で学んできた常識で考えれば、ここは否定すべきだろう。

「いいえ、違います、俺はポーレット侯爵家とは無関係です」

さて、どこまで正直に話すべきだろうか？
この世界で異世界転移や異世界転生はよくある話なのだろうか。
勇者召喚があるのなら、俺は死ぬ直前に召喚された可能性もある。
勇者か、勇者ならいいな、ハーレムを作りたいなんて言わない。
眼の前の美女と結婚出来たらそれだけで満足だ。

「嘘を言うな、今ここにポーレット侯爵家以外のモノが来る事など不可能だ。
ポーレット侯爵家と争っているここに、商売に来たとでも言うのか。
そんな見え透いた嘘を誰が信じるか。
それでなくても、こんな何もない僻地に三カ月かけて来ても何の利益もない。
さあ、正直に全部白状するのだ、どうやって警戒厳重な砦を突破した。
正直に言わないと拷問をしてでも白状させるぞ」

根はとても優しい女性のようだな。
拷問などやりたくないと顔に書いてある。
俺が今いる場所は、眼の前の美女が所属している陣営の大切な領内なのだな。
それもどんな手練れも入り込めないほどの警戒厳重な場所のようだ。
ここにポーレット侯爵家の者が簡単に入り込めるようだと、この争いに勝ち目がないのだろう、相当焦っている。
どうする、狂人だと思われる危険を冒して全て正直に話すか？