第16話：猛勉強

働かないで勉強に打ち込めるのは、手持ちの六百六十三万円を使い切るまでの間だけだから、必死で猛勉強を始めた。
だから食費を絞って少しでもお金を節約しようとしたのだが、ヒュウガの食事費だけは絞ることができなかった。
老犬であることも考慮して、質のよいドックフードを購入した。

一・八ｋｇ三一八四円の評判のいいモノを買ったが、これで十五日分だった。
ヒュウガの一日の食費は三一八円という事になる。

ただヒュウガが飽きないように、二ｋｇ送料込みで六七九〇円のドックフードや、四・五ｋｇ送料込みで一万三四四六円のドッグフードも買った。

だが俺の食事は、のり弁とカップラーメンで一〇〇〇キロカロリーを確保したり、ハンバーガーチェーン店でハンバーガーとフライドポテトのMサイズと炭酸飲料のセットで一一〇〇カロリーを確保する事もできたが、それは贅沢だ。
もっと安く一日必要な二〇〇〇カロリーを確保するなら、今まで通り激安スーパーで安い食材を買って自炊するのが一番だ。

しかし今の俺に一番大切なのは、勉強の時間を確保する事だった。
サラダ油が一〇〇ｇで九二一カロリーだ。
だからフライドポテトのＭサイズは四五四カロリーもある。
八五ｇのポテチチップスでさえ五〇〇カロリーだ。
弁当屋やコンビニで買うと高くついてしまうが、少しでも勉強時間を確保するためなら多少高くなっても仕方がない。

でも少しでも食費を安くしたいのも間違いない。
単に安く早くカロリーを確保するだけなら、乾麺を茹でて醤油と砂糖とサラダ油をかけて食べればそれで済む。
しかしバランスの悪い食事で栄養失調になるわけにもいかない。
ビタミン剤でバランスを取る方法もあるが、俺がやったのはヒュウガのドッグフードを食べてしのぐ方法だった。

人間の俺の主食が小麦と砂糖と油なのに、ヒュウガの方がはるかに高価なドックフードを食べて、俺が時々それを分けてもらうなんて、情けなさすぎて涙が出る。
だから激安スーパーに行く時に少しだけ贅沢をした。
ラテン語を勉強する時間を確保するために、ラテン語辞典を暗記しながら歩いて激安スーパーに行くのだが、その時にタイムセールにで半額になっている牛丼屋やちらし寿司を買って食べた。
月に一度の贅沢だったが、最高の幸せだった。

そんな俺の一日の食費が二〇〇円弱で、ヒュウガの食費が三〇〇円強。
合計で一日五〇〇円の食費だったが、それが三六五日で一八万二五〇〇円だった。
ヴァンパイアハンターの襲撃がなければ、六百六十三万円で三四年間生きていけるのが分かった。
いや、ヒュウガが亡くなったら六八年は生きていけるのだ。
一年かけてようやくここまで切り詰めなくても大丈夫だと理解できた。