引きこもり吸血姫に一目惚れ

克全

第13話:予想外

譲渡を受けた老柴犬の名前はヒュウガにした。
譲渡前に仮に付けられていた名前をそのまま付けた。
何度も名前を変えられるとヒュウガが戸惑うと思ったからだ。
それでなくても平均寿命近くになっているのだ。
平均寿命が十三歳から十六歳と考えられている柴犬に、老齢になってからかける負担は少ない方がいい。

それでなくても、俺はヒュウガに無理をさせようとしているのだ。
いや、邪悪な計画の主役にしようとしているのだ。
カーミラを助けたい気持ちが一番ではあるが、自分が働かずに食べて行けるように、ヒュウガに働かせようとしているのだ。
犬を止めさせて使い魔に仕立て上げて、ネットで高く売れる日本産トリュフを集めさせようと考えているのだ。

「ほれ、ほれ、ほれ、暴れるでないヒュウガ。
今ブラッシングしてやるから、大人しくしておるのじゃヒュウガ」

俺の邪悪な考えなど吹き飛ばしてしまうほど、カーミラはヒュウガを溺愛した。
俺は番犬として庭で飼う心算だったのだが、カーミラは平気で屋敷の中に入れる。
それどころか、ヒュウガが地下の墓所に入る事すら許している。
正直嫉妬が芽生えてしまうほどの溺愛ぶりだ。
ヒュウガも俺よりもカーミラに懐いて、カーミラが起きている時間にあわせて生活するようになり、昼間に番犬させる俺の計画が台無しになってしまった。

だが、カーミラにヒュウガを溺愛させて、老齢で弱ったヒュウガを助けるために、仕方なく使い魔にするという計画を考えれば、悪い状況ではない。
そういう意味では、カーミラがヒュウガを溺愛してくれるのは計画通りなのだが、計画と全く違ってしまっているのは、ヒュウガがとても元気な事だ。

柴犬の平均寿命は十三歳から十六歳くらいだが、人間に大切に飼われた柴犬は十八歳くらいまで生きて、老衰で死ぬケースもとても増えている。
前の飼い主に酷い飼い方をされていたヒュウガは、早く寿命を迎えるという計算で譲渡してもらってきたのに、これでは完全な計算違いだ。

ヒュウガを保健所から譲渡してもらってから一カ月、極力節約して生活してはいるが「座して食らえば山も空し」という言葉があるように、金塊を売って手に入れた六百六十三万もいずれはなくなってしまう。
まして俺だけなら極限の節約もできるが、ヒュウガにひもじい思いをさせるわけにはいかないので、どうしても食費が想定よりもかかってしまう。

そんな事を考えていた俺に、ヒュウガが恩返ししてくれたのだ。
カーミラを護るためにこの屋敷に引籠った状態で、働くことなく金を稼ぐ方法を必死で考えていた俺に、ヒュウガがとんでもないモノを授けてくれた。
全く想像もしていなかったモノが、この屋敷の地下室に眠っていたのだ。

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