第124話：苛立ち

はらがたつ、腹が立つ、本当に腹が立つ。
俺が見逃してやっているのに、なんで目立つ形で敵対する。
大陸各国に連絡を取って戦おうとする。
勝てないのは分かっているだろう。
使者を送られる大陸各国が嫌がっているだろうが。
それも分からない馬鹿なのか、馬鹿なのだな。

実際問題どうするべきだろうか。
潜入包囲させているスライムの戦力は十分だ。
その気になれば教都の全人口をサクラに食べさせることも可能だ。
だが流石にそんな事をすると人類の敵に認定される。
認定されても、全面戦争になっても、負ける心配は全くない。
だから別にどうという事はない。

だがそれはあくまでも俺一代の話だ。
愛するブロアーの代になって一斉蜂起などされたら悪夢だ。
だからといって未然の防ぐためと言って、直接支配国以外の人間を皆殺しにしても全く意味がない。
残った人間に内心で人類の敵に認定される。

人類の敵に認定されないように敵対する者を皆殺しにする。
汚い方法だが教団に内部抗争させるしかない。
今集めた証拠だけでも、下劣な教皇枢機卿団派と、清廉を旨とする清教派が殺し合いを始めるだろう。
問題はお飾りの聖女をどう扱うかだ。

天職が聖女の娘が現れた事自体が、この時代の危機を明らかにしている。
どう考えても彼女の力がこの時代には必要なのだろう。
なのに教皇と枢機卿団は彼女を囲い込むだけで何もしていない。
いや、堕落させようと贅沢三昧させている。
流石に教皇の女にしたり、枢機卿団共用の愛人にはしていない。
何かの拍子にそれがバレた時の危険くらいは理解しているのだろう。

「考えが纏まったようですね、アレックス」

俺が決意を固めたのを見てとったのだろう、クラリスが話しかけてきた。
流石、俺の妻だけある。
亭主の事をよく見てくれている。

「ああ、まずは今手に入れている悪行の情報を清教派に流す。
大陸各国にも流す。
それでも清教派も大陸各国も直ぐには教皇枢機卿団派を攻撃しないだろう。
彼らは口では非難しても実際に戦う度胸はないからね。
だけど教皇と枢機卿団は違う。
あいつらは自分達の立場を守るためなら何でもやる。
それだけの戦力も持っている。
清教派に先制攻撃して幹部を皆殺しにするだろう。
だがそれが教団崩壊のきっかけになる。
善良で馬鹿な信徒達は一斉に教都から逃げ出すだろう。
教都近隣の国に逃げ込むだろう。
そこで近隣諸国がどう動くかだな」

「アレックスが近隣諸国に、教皇と枢機卿団を討伐しなければ親征すると伝えて、彼らに無視したらサクラに領内侵攻されるという恐怖感を与えるのでしょ」

クラリスの言う通りだ。
どこ国も俺に侵攻の口実を与えたくないと思っている。
だから俺が直接手を下さなくても彼らが教団を壊滅させてくれるだろう。

「オンギャア、オンギャア、オンギャア」

「ああ、オムツが濡れたのかな、それともお腹がすいたのかな。
直ぐにオムツを交換してあげるからね」